映画「おとうと」のモデル 山谷ホスピス「きぼうのいえ」創設者の今 突然の解任劇→入院→サラ金から600万円…残ったのは愛猫だけ
介護する側から介護される側へ
介護する側から介護される側へと180度 の転換となり、 「人生おもしろいね」と笑いつつ、こう続けた。 「でもさ、山谷のおじさんたちが『てめーら、おれたちを食いものにしやがって』って福祉や医療関係者に毒づいていた気持ちもよくわかるよ。儲かるからやっているという人もいっぱいいるからね」 饒舌さは変わらない。その山本氏が理事長を解任されたのは2018年だったが、その後、音信不通となり、どうして解任されたのか藪の中であった。何があったのか? 「うん、理事会で僕に業務上横領だって緊急動議があってね、全員賛成。クーデターだね。僕は父親から借りた金300万円をおろして、ポケットにいれてしまったんだけど、まあ公私混同だったのかなあって今は思ってる。もうちょっとパブリックセンスが僕にあればよかったなって」 山本氏はかつて銭湯のあった土地に「きぼうのいえ」をつくった創設者であるばかりか、その開設資金も、1日10万円、1年に3650万円もの運営資金も捻出してきた理事長であった。オーナーにして会社でいえば代表取締役社長ではなかったか。 「そうだよ。でもね、NPO法人にしちゃってたんだよね、僕が。だから、その運営資金もNPO法人としてきちんと処理しなければならなくなってたの。300万円も『きぼうのいえ』名義に。恥ずかしい話ですよ。今や創設者ってだけ」 施設に隣接する一戸建てに住んでいたのはどうなったのか。 「そこも追い出された。というより、あの(解任)あと精神的ショックが大きくて倒れてね。事情は違うけど映画『乱』みたいなものでさ。あのときは、7分に1回の割合で吐き続けたの。精神的ショックというだけで、人間は吐けるんだって思った。最後は人生、嫌んなっちゃって、アルコール度数50度 の泡盛で周りにあった薬を全部飲んで自殺未遂をやった。それで病院に担ぎ込まれて、精神科に入院してね。入院費が嵩んだし、サラ金とか消費者金融から約600万円もの借金まみれになってたから、その支払いのために売っちゃった」 山本氏の暮らす賃貸マンションでは猫を飼うことが禁止されていて、いつも会うことはできないが、残ったのは20歳になる猫「みその」と、警察官僚であった父親の写真程度。ベッドの下には食べかけのキャットフードと共に、電子レンジでチンするというレトルト食品やパックのご飯が山積みになっていた。まさに身寄りのない要介護の独居老人の様相である。 *** 第2回では、吉原にある家賃5万3700円の自宅で暮らす山本氏の様子に迫る。
デイリー新潮編集部
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