「パートナーを性的に好きかどうかわからない」お悩みに桃山商事・清田隆之さんがアンサー!
文筆家として恋愛やジェンダーに関する書籍・コラムを多数執筆している、恋バナ収集ユニット『桃山商事』代表の清田隆之さんによる連載。忙しい日々の中、私たちには頭を真っ白にして“虚無”る時間も必要。今抱えている、モヤモヤやイライラも、ちょっと軽くなるかもしれません! 桃山商事 清田の「BOOKセラピー」結婚とセックスのお悩みに効く本ほか
結婚を考えているパートナーのことを、性的に好きかどうかわかりません…。
【今月の“虚無っちゃった”読者のお悩み…】 結婚を考えているパートナーがいます。彼のことは人としてすごく好きですが、見た目がすごくタイプというわけではなく、性的な関係を持つことにやや抵抗があります。“性的に好き”かどうかわからないのに、結婚してもいいのでしょうか…。こんなことを考えているなんて酷い人間だと思われそうで、誰にも相談できず、虚無って深夜にひたすらYouTubeなどを眺めています。 エディター種谷:今回の相談は、「パートナーを性的に好きかどうかわからない」というもの。この相談者さんだけではなく、これまでに何度か同じようなお悩みの声をいただいたことがあります。 清田さん:なるほど…。自分は昨夜、テレビ史に残る放送事故をまとめたショート動画を延々眺めて虚無っておりました。「人としてすごく好き」というのは、おそらく頼りになるとか価値観が合うとか、いくつかの要素を元にパートナーのことを「一緒に暮らしていく相手として良い」と感じてるっていうことですよね。その中でただ1点、性的に好きかどうかわからないという問題があり、このまま結婚していいのだろうか…という葛藤に苦しんでいる。 ライター藤本:まわりに相談しにくい問題なのもあって、より悩みが深くなってしまっているのかもしれませんね。 清田さん:恋愛感情がないと結婚しちゃいけないのではないか…。そのような考えには、いわゆる“ロマンティックラブ・イデオロギー”と呼ばれる価値観が影響しているように感じます。 “ロマンティックラブ・イデオロギー”というのは、「恋愛によって結びついた男女が結婚し、出産、子育てを通して愛を育みつつ、共に年をとっていく」という、社会学上の概念。19世紀以降に欧米社会から広がり、現代ではかなり解体されつつあるようですが、それでも今なお「恋愛・結婚・出産が三位一体となった生活が望ましい」という家族観は蔓延している。だから、「1つでも欠けていたら正式なパートナーシップとは言えないんじゃないか」という疑問を持ってしまうのは、ある意味で仕方ないことだとも思うんです。 ライター藤本:つまり、自分を責めて思い詰める必要はない、ということでしょうか。 清田さん:「酷い人間」とありますが、自己責任というより社会問題、くらいにとらえてもいいんじゃないかと個人的には思います。性的に好きじゃないけれど結婚することも、性的に好きな相手と結婚したけれどセックスレスになることも、いくらでもあり得ることじゃないですか。言ってしまえば、どんな形の結婚だってOKなはず。 ただ、もちろん相手との合意形成は必要で、この相談者さんの場合もそこは考えた方がいいと思うんですよね。直接そう伝えるかは別として、「あなたに対して愛情は持っているけれど、性的な関係を結ぶことには積極的になれない。ただ、パートナーとしては最高だと思っているので、私としては結婚という選択をしたい。あなたはどう思いますか?」という話をする必要はあるはず。…って、もちろん難しいことだとは思うのですが。 エディター種谷:勇気がいるかもしれないけれど、まずは話してみないとわからないですもんね。相手も自分に対して何か思っていることがあるかもしれないし。 清田さん:そこを曖昧にしたままだと、結婚しても別れても、モヤモヤが残ってしまうような気がするんですよね。逆に話し合ってみて落としどころが見つかれば、「壁にぶつかっても道を探れる二人なんだ」という自信になるかもしれないし、たとえ別れることになっても「いつかはこうなる運命だったんだ」と納得できるかもしれない。ただ、合意形成を目指すとなると、タフなやりとりは避けられない。今すぐ簡単にできることではないからこそ、対話に進むための段階的なステップが必要だと思うんです。 取材・文/藤本幸授美 イラスト/藤原琴美 画像デザイン/坪本瑞希 企画・構成/種谷美波(yoi)