Figma“中興の祖”が果たした役割に見る「ベテランの力」
経営陣の迷い、従業員の不安──。あらゆる企業が成長する過程で経験するものだが、スタートアップにとっては致命傷になりかねない。そんなとき、ベテラン社員の「経験」が助けになることもある。 2012年創業の米プロダクト・デベロップメント企業「Figma(フィグマ)」は、デザインとプロトタイピング用ツール「Figmaデザイン」や、デジタルホワイトボードツール「FigJam」などの製品・サービスを世に送り出してきた。同社は、2024年5月現在、評価額が推定約125億ドルのいわゆる“ユニコーン”(評価額が10億ドル以上の未上場企業)に成長している。 だが、その道のりは順風満帆だったわけではない。創業から3年経っても製品が出荷できずにいると、10人弱だった社員に焦りや苛立ちが感じられるようになっていた。そこで2015年8月、ディラン・フィールドCEOのビジョンを具現化するために招かれたのが、Sho Kuwamoto(ショー・クワモト; 桑本 晶)だ。 日本で生まれ、幼いころに渡米したクワモトは、General Magic(ジェネラル・マジック)勤務を皮切りに、Macromedia(マクロメディア)や、同社を買収したAdobe(アドビ)など、米屈指のテクノロジー企業で働いてきた。起業した経験もあり、スタートアップから大企業までさまざまな段階のテクノロジー企業での勤務経験をもつ彼は、FigmaでフィールドCEOら経営陣を後方支援しながら、製品の出荷までのロードマップを描き、チームビルディングに寄与した。 米ベンチャー投資会社セコイア・キャピタルのブログ記事で、FigmaのフィールドCEOは、クワモトについて「より生産的、かつ包括的にチームを管理し、率いる方法を学ぶのを手伝ってくれた」と振り返り、「遅れてきた共同創業者(Late Co-Founder)」のような存在だと評している。クワモトはいわば、同社の“中興の祖”とでもいえる役割を担ってきたのだ。 のちにiPodやiPhone、アップルウォッチなどの開発へとつながる、シリコンバレーの“伝説的なスタートアップ”で学んだこと、ウェブデザイナーにお馴染みの「Dreamweaver(ドリームウィーバー)」の開発現場で得た教訓、そして現在のFigmaの新製品開発チームに対して取っているアプローチとは──。Figmaの年次イベント「Figma Config 2024」で実現した、同社の製品担当バイスプレジデント、ショー・クワモトのインタビューをノーカットでお届けする(編集部註:英語で行われたインタビューを翻訳・編集しています)。 ──クワモトさんのキャリアで興味深いのは、Macromedia(マクロメディア)→Adobe(アドビ)→Medium(ミーディアム)というふうに、デザインツール開発企業や、デザイン重視のメディア企業で働かれてきた点です。Figma(フィグマ)に転職されるまでのいきさつと、これまでに得た学びがあれば教えていただけませんか。 ショー・クワモト(以下、クワモト):過去を振り返っている今だから、デザイン寄りのキャリアに見えるのだと思います。でも、働いていたときは、自分が何をしているのかまったくわかっていませんでした。転職するときは、ただ次の仕事を探していただけです。実際、最初に就職したのが、「General Magic(ジェネラル・マジック)」という会社でした。 ──アップルからスピンアウトした、“伝説のスタートアップ”ですね(編集部註:1990年にアップルの社内プロジェクトから生まれた子会社で、スマートフォンの前身となる「情報携帯端末」などを開発したものの、2002年に破綻。アップルやNeXTのグラフィックデザイナーだったスーザン・ケアや、グーグルの携帯電話用OS「Android」を開発したアンディ・ルービン、“iPodの父”ことトニー・ファデルなどが在籍した)。