Figma“中興の祖”が果たした役割に見る「ベテランの力」
理想は「ユーザーが変化にほとんど気づかない」ほど自然な改良
──クワモトさんは、Figmaが10人くらいのときに入社しているので、スタートアップとしても小規模だったと思います。それが今やグローバル企業ですが、そのスケール感ともなると、顧客も多様化して、製品に対して個別の仕様を望むケースも出てくるかと。そうした顧客の希望をプラットフォームやツールに反映する際のバランスについてはどうお考えですか? クワモト:私たちが幸運なのは、顧客の多くがデザイナーで、彼・彼女らが二つの面を持ち合わせていることです。製品にもっと機能を求めるユーザーとしての側面と、製品の設計や意匠の意図を理解してくれているデザイナーとしての側面です。デザイナーとしての側面は、製品の設計や意匠に意図があり、何を盛り込み、何を削っているかについてスマートな選択がされている“抑制の効いた製品”が好きなのです。「こんな機能があると助かるんだけど」とよく言われます。でも同時に、「でも、私なら加えるかどうかわかりません。なぜなら、……です」と言い添えるのです。実際、メールに「私だけかもしれませんし、同じ境遇にある人はそれほど多くないでしょうから、じつは良いアイデアではないのかもしれません。でも念のため、アイデアだけ提案させてください」としたためて送ってくれます。私たちの意図を理解してくれているのです。 私の経験では、単に機能を追加したときよりも、私たちが問題の本質を理解していて、それを抜本的に修正したときのほうが、ユーザーの反響が大きいですね。一般的な製品開発では、派手な機能を追加したりするものです。それもユーザーに注目してもらうためには、インパクトが大きくなくてはいけません。しかし、2024年3月にリリースした「Multi-edit(マルチ編集)」は、ユーザーの皆さまにも気に入っていただけたようです。そして、誰もが一つの“新製品”のように話していました。しかし実際には何かというと、何百、何千もの小さなアイデアの結晶なんですよね。「複数のものを選択しているとき、回転させるとどうなるか?」「ボックスから別のボックスへドラッグしたらどうなるか?」「大きくしたらどうなるか?」。そうやって、インタラクションを一つひとつ調整していったのです。 「理論上はこんな感じかな」と思えば、時間をかけてそれを試してみる。それから、「実際にやってみるとうまくいかないな。ユーザーは別の操作をするわけだから」というふうに再考します。そのように改良を重ねていくわけです。出来上がりがあまりにも自然に感じられるので、ユーザーはその変化にほとんど気づきません。直感的なものだから、以前はどうだったかさえ忘れてしまう。でも、それが理想なのです。みんなが気に入ってくれているのですから。私の考える完璧な機能とは、ユーザーの誰もがその恩恵を受け、楽しみ、ありがたく思いながらも、それにほとんど気づかないようなものであることです。