ジェネリック薬1錠は飴より安い価格でつくらされる…日本で薬が深刻な不足に陥っている理由
今、日本では、26%の処方薬が不足している。なぜなのか。小児科医の森戸やすみさんは「もっとも大きい理由は、薬の価格が下がりすぎていることだろう」という――。 【図表をみる】5年連続(2018~2022年度)の薬価改定により薬価下落が加速 ■「薬がない」というニュース 最近、「薬がない」というニュースをよく見ませんか? 市販薬ではなく、病院やクリニックから出される処方薬のほうです。薬局に処方箋を持っていくと、薬剤師から「うちの薬局には在庫がありません」と言われたり、「今この薬は取り寄せもできないので、処方した医師に確認したところ、同じような作用の別の薬に変わりました」と説明されたりすることが増えたと思います。 私は小児科医ですが、製薬会社や卸会社からなんらかの薬が「出荷調整になります」というお知らせが来たり、薬局からなんらかの薬が「現在、在庫が少なくなりました」「在庫がありません」などと連絡が来たりするのが常態化しています。 なんと新型コロナウイルス感染症の蔓延下に不足していた「鎮咳薬」や「解熱薬」は、今も品薄状態が続いています。5歳以上の子どもであれば解熱剤はイブプロフェンも使えますが、5歳未満だとアセトアミノフェンしか使えません。また子どもの場合、安全性などを考慮するとアセトアミノフェンが第一選択薬なので、日本小児科学会は成人の患者さんへはなるべく他の薬を処方するようお願いしていました(※1)。これは現在も変わりません。アセトアミノフェンのような以前からある一般的で高価でない薬が足りなくなるのは、今までになかったことです。 ※1 日本小児科学会「アセトアミノフェン製剤の在庫逼迫に伴う、成人患者への解熱鎮痛薬処方時のご配慮のお願い」 ■医薬品の26%が不足している 今では、基本的な抗菌薬も不足しています。例えば「溶連菌感染症」の第一選択薬であるペニシリン系がなくなったり、「マイコプラズマ感染症」の第一選択薬であるクラリスロマイシンが一時出荷制限になったりして、代わりの抗菌薬にせざるを得なくなりました。現在もマイコプラズマ感染症の変異型が増えている中で、小児に使える抗菌薬がなくて困ることがあります。 さらには小児科・内科ともに患者さんのいる「てんかん」の治療薬も不足して支障をきたしています。普段使っている薬が入手できなくなったために成分の異なる代替品を使わざるを得なくなり、効果が不十分で疾病のコントロールが悪くなったり、副作用が出たりしたことが報告されています(※2)。 大人の内科でも抗菌薬全般が足りなくなり、去痰薬や鎮咳薬、アレルギーの薬も不足。産婦人科では不妊治療の薬が足りなくなって治療を中断しなくてはいけなくなったり、局所麻酔薬が入荷しないために外科的な処置ができないといった状況になりました。 日本製薬団体連合会の調査によると、現在では1万8612品目の医薬品のうちの4629品目(26%)が不足しています(※3)。まさに異常事態です。誰しもどんな薬がいつ必要になるかはわかりませんし、今後もどんな薬がいつまで不足するのかわかりませんから、他人事ではありませんね。 ※2 日本てんかん学会「抗てんかん薬供給不足問題に関するアンケート調査 結果報告書」 ※3 全国保険医団体連合会「【医薬品不足】医薬品の供給不安定を国の責任で改善することを求める」