【“マルキの闇”裁判終結へ㊦】兵庫県警機動隊員連続自殺 つかみとった「パワハラ」と“無念”の和解
■異例の連続自殺めぐり分かれた判断
一方で、山本巡査と同じ時期に、同じ機動隊で命を絶った木戸巡査については、遺族による公務災害の申請が2017年の時点ですでに棄却されていた。2人の自殺をめぐり、判断が大きく分かれた形だ。 山本巡査の公務災害が認定された2018年3月には、木戸巡査の自殺をめぐる損害賠償請求訴訟の第一回口頭弁論が開かれ、兵庫県側は「請求の棄却を求める」と主張し、遺族側と全面的に争う姿勢を示した。 なぜ2人の自殺をめぐり判断が分かれたのだろうか。 公務災害にあたるかどうかを判断する地方公務員災害補償基金兵庫県支部は、兵庫県知事がトップを務める組織だ。私は、兵庫県や兵庫県警に取材をしたが、明確な回答は得られなかった。 ただ、ある警察幹部は「木戸巡査の遺族に続いて、山本巡査の遺族も提訴するとなれば、兵庫県や兵庫県警は同時に2件の裁判を抱えることとなり、大きな負担となる。山本巡査の自殺を公務災害や殉職と認定したのは、遺族の提訴を"封じる"意味合いもあったのではないか」と語った。実際、山本巡査の遺族は提訴には踏み切らず、木戸巡査の遺族のみが長い裁判を闘うこととなった。
■裁判で明らかになった「A隊員」のパワハラの数々
木戸巡査の自殺をめぐる裁判は、2017年10月に遺族が提訴して以降、長い時間を要した。私は、裁判を最後まで見届けることが叶わず、2020年12月にニューヨークへ赴任した。それ以降は、読売テレビの同僚記者たちが取材を引き継いでくれたほか、私自身も遺族と連絡を取り合いながら裁判の経過を見守ってきた。 裁判の中で、兵庫県警は数百枚に上る膨大な資料を開示した。木戸巡査の自殺をめぐり、兵庫県警が「A隊員」を含む機動隊員らから聞き取りをした調査の詳細なメモだ。 そこには「A隊員」が木戸巡査に対し「お前いらんねん」「辞めてしまえ」と発言していたこと、休みの日にも木戸巡査を呼び出し厳しく叱責していたこと、木戸巡査の書類に「ボケ木戸」と記載した付箋を貼っていたこと、木戸巡査だけを執拗に責め立て"ターゲット"にしていたことなど、数々のパワハラ行為が記載されていた。 多くの同僚隊員らが「A隊員」による組織内でのパワハラについて、勇気をもって告発したにも関わらず、兵庫県警は、これを隠ぺいし「パワハラはなかった」とする調査結果をまとめていたのだ。