【“マルキの闇”裁判終結へ㊦】兵庫県警機動隊員連続自殺 つかみとった「パワハラ」と“無念”の和解
■無言を貫き逃げる「A隊員」
「A隊員」は驚いた様子で立ち止まる。真相につながる話が聞けるかもしれない。質問をしようと思った矢先、コンビニの中から「A隊員」の上司が慌てた様子で現れ、カメラと「A隊員」の間に入り、取材を遮った。 上司に守られながら、逃げるようにして警察署へと向かう「A隊員」に対し、私は質問を続けた。 「機動隊の中で何があったのか」 「木戸巡査との間に何があったのか」 「あなたに宛てた遺書が残されていたことについてどう思っているか」 「木戸巡査が自殺したことをどう考えているか」 「パワハラはなかったのか」 「木戸巡査の遺族に何か伝えたいことはないか」 しかし「A隊員」は無言を貫き警察署の中へと逃げ込んだ。 後日、私は「A隊員」と改めて一対一で対峙する機会をつくろうと考えた。上司やカメラマンがいない状況であれば、少しでも話をしてくれるのではないかと思ったからだ。 その日は「A隊員」が勤務を終えて警察署から出てきたタイミングで声をかけた。しかし、私の顔を見るなり全力で走りだし、住宅街の中へと消えていった。
■「職務と自殺に因果関係あり」覆された兵庫県警の調査結果
約20人で構成される小隊の中で起きた異例の連続自殺をめぐり、木戸大地巡査(当時24)の遺族が「パワハラが原因だった」として、兵庫県に損害賠償を求める裁判を起こしたのに続いて、山本翔巡査(当時23)の遺族も提訴に向けた準備を進めていた。 しかし、2人の自殺から2年半が経った2018年3月、「マルキの闇」は大きな転換点を迎えた。山本巡査の自殺について、地方公務員災害補償基金兵庫県支部が「職務と自殺に因果関係がある」として、民間企業の労災にあたる「公務災害」と認定したのだ。 兵庫県警の内部調査では「わからなかった」とされていた自殺の原因について、「警察内部にある」と異なる判断が下された。 これは、2015年12月に兵庫県警が出した調査結果が、正式に覆されたことを意味する。公務災害と認定されたことを受け、兵庫県警は山本巡査の自殺を「殉職」と扱うことを決め、「一階級特進」とした。