【“マルキの闇”裁判終結へ㊦】兵庫県警機動隊員連続自殺 つかみとった「パワハラ」と“無念”の和解
■裁判に出廷した「A隊員」は…
2021年12月、「A隊員」が証人として裁判に出廷することが決まった。遺族の前に姿を見せるのはこれが初めてだ。 証人尋問が行われるのを前に、木戸巡査の父・一仁さんから電話が入った。「やっとA隊員に直接会って話ができる。正義感のある警察官であれば、当時、大地との間で何があったのかを洗いざらい話してもらいたい。それが真相に近づくために残された唯一の道だ」 しかし、遺族の期待は裏切られた。 「A隊員」は、証人尋問で木戸巡査の父・一仁さんがいくら問いただしても「何年以上も経っているので覚えていない」「その時の感情はわからない」と繰り返すばかりだった。 結局「A隊員」は自身のパワハラを認めず、木戸巡査や遺族への謝罪の言葉もなく、遺族とは目すら合わせずに法廷を後にした。
■「パワハラ認定」無念の和解へ
2022年6月、一審の神戸地裁は「A隊員」の行為がパワハラにあたると認定し、兵庫県に慰謝料として約100万円の支払いを命じた。一方、自殺とパワハラの因果関係については認めなかった。 読売テレビはこの判決を速報で報じた。判決直後、木戸巡査の父・一仁さんからニューヨークにいる私に電話が入った。さまざまな感情が交錯し、声が震えている。
■「『パワハラ』という4文字を認めさせるのに6年半以上」
「ようやくここまで来ることができた。『パワハラ』という4文字を認めさせるのに6年半以上もかかった。これまで一緒に闘ってくれて本当にありがとう。ただ、大地の自死の原因がパワハラだと認められない限り納得はできない。だからもう少しだけ頑張ってみようと思う」 父・一仁さんの声を聞いていると、それまでの取材が走馬灯のように頭を駆け巡った。機動隊員らの告発を隠ぺいし「パワハラはなかった」と結論付けた兵庫県警の調査結果。「報じる必要はない」と圧力をかけてきた県警幹部。真相を追い求める遺族に黒塗りの文書を出し続けた県警の対応。本当に長い道のりだった。 遺族は、自殺とパワハラの因果関係が認められなかったことを不服として控訴した。驚いたのは、兵庫県警側もパワハラが認定されたことを不服として控訴したことだ。裁判所の判決をもってしても、兵庫県警は組織内でパワハラがあったという事実を否定する姿勢を崩さなかった。