平和への最大のチャンス、ウクライナ和平合意を壊したのは誰か 交渉当事者から新証言相次ぐ 「ロシアを追い詰めろ」が生んだ悲劇
長期戦の様相を呈し終わりの兆しの見えないロシアのウクライナ侵攻。しかし、開戦直後の2022年3月、双方の直接交渉により和平の最大のチャンスが訪れていた。最近になり交渉参加者の新たな証言も加わり、早期和平を望まなかった欧米の思惑が交渉崩壊の一因となったとの構図が浮かび上がってきている。(共同通信=太田清) 「数十万人の兵士の命、救えた」 ロシア補佐官、停戦交渉頓挫で
▽楽観論が支配 ロシアとウクライナ代表団の和平交渉は2022年2月28日、ウクライナ・ベラルーシ国境で始まり、その後、ベラルーシ領内やオンラインによって断続的に続いたが、ハイライトは3月29日、トルコが仲介してイスタンブールで開かれた直接対話だった。 イスタンブールでの交渉終了後、両国側から交渉結果について楽観的な発言が相次いだ。 ロシアのフォミン国防次官は信頼醸成措置として、首都キーウ(キエフ)と周辺などでの軍事作戦を大幅に縮小すると声明。実際にロシア軍は、後に市民の虐殺があったとされるキーウ近郊ブチャを含むキーウ州からの撤退を開始した。 ウクライナのゼレンスキー大統領は「前向きなシグナルだ」と評価。仲介役のトルコのチャブシオール外相(当時)も「重要な成果があった」とした上で、ラブロフ、クレバのロシア・ウクライナ両国外相の会談が2週間以内にも実現する可能性があると言明した。
ロシア代表団の団長を務めたウラジーミル・メジンスキー大統領補佐官は「ウクライナ側が初めて、ロシアとの正常な関係構築に向けての提案を文書で行ってきた」とした上で「今後、(両国の)首脳会談の可能性がある」と示唆。 ラトビアに本拠のある独立系ニュースサイト「メドゥーザ」によると、ウクライナ側は交渉でウクライナのNATO加盟断念と引き換えに、同国の安全保障の枠組み構築を含めた10項目を提案。 同枠組みは米国、英国、中国など国連安全保障理事会5常任理事国(P5)に加え、イスラエル、ポーランド、トルコなど関係国との間で策定し、各国議会が批准。 P5、関係国はウクライナが他国から攻撃を受けた場合、飛行禁止区域設定などの協力を提供するとしている。焦点のロシアが占拠したクリミア半島の主権については今後15年間の協議で解決するとした。 米国家安全保障会議(NSC)の欧州ロシア担当上級部長を務めたフィオナ・ヒル氏らは米外交専門誌フォーリン・アフェアーズで、ロシア、ウクライナ両国は(1)ロシア軍が侵攻前の地点まで撤兵(2)ウクライナはNATO加盟放棄を約束(3)NATO加盟の代わりとして、関係国により今後の安全を保障される―ことを柱とした和平合意で暫定合意していたことを明らかにした。先のウクライナ提案を基にした合意とみられる。