平和への最大のチャンス、ウクライナ和平合意を壊したのは誰か 交渉当事者から新証言相次ぐ 「ロシアを追い詰めろ」が生んだ悲劇
一方、プーチン・ロシア大統領は2023年6月17日のアフリカ諸国との首脳会談で、暫定合意したとされる18項目からなる和平文書を首脳らに見せた上で「(合意に基づき)ロシア軍がキエフ(キーウ)周辺から撤退した後に、ウクライナが一方的に合意を破棄した」と主張した。 では、なぜイスタンブール交渉後、和平への機運が急速に失われることになったのか。 ▽ロシアの関心 交渉から1年以上たった2023年11月、ウクライナ交渉団を主導した同国与党「国民の奉仕者」議員団代表のダビド・アラハミア氏が民放1プラス1の人気トーク番組(同月24日放送)に出演し、「ロシアが求める中立化を受け入れれば戦争は終わっていた」と交渉の中身を明らかにした。 同氏によると、交渉でロシアが最も関心を持っていたのは「ウクライナが中立の立場を受け入れ、NATOに加盟しないこと」だった。「彼らにとって最重要事項で、ウクライナの非ナチ化やロシア語の公用語としての保証は表面的な要求だった」という。
▽英国首相の訪問 番組ホストのナタリヤ・モセイチュクさんが「なぜ合意しなかったのか」と尋ねると、アラハミア氏は一瞬の沈黙の後、「第一に憲法改正の必要があったからだ」と応じた。ウクライナは2019年、NATO加盟を「国是」として憲法に盛り込んでおり、加盟放棄の場合、同条項を修正しなければならない。 同氏はさらに「ロシアが合意を100パーセント守るとの確信がなかった」とした後、直後にジョンソン英首相(当時)がキーウを訪問し「英国はロシアとどんな合意も調印する気はない。共にロシアと戦おう」と主張したことが交渉崩壊の一因だったことを明らかにした。さらに「複数の西側同盟国が(NATO加盟とは異なる)一時的な安全保障に合意しないよう」ウクライナに助言したとも語った。 ジョンソン氏はイスラマバード和平交渉翌月の4月9日、キーウを予告なしに訪問し、ゼレンスキー大統領らと会談していた。 ウクライナ紙「ウクラインスカ・プラウダ」は2022年5月5日、ジョンソン氏がゼレンスキー大統領に「プーチン大統領は戦争犯罪者であり、交渉相手ではない」「もしウクライナがプーチン氏と安全保障文書で署名するつもりでも、西側はしない」とのメッセージを伝えたと報じていたが、今回のアラハミア氏の発言はこうした報道を裏付けるものとして注目された。