一つじゃない「真実」に寄り添い、伝える 湯浅彩香・弁護士 あの日から③
ある強制性交事件では、飲み会後に女性の部屋で2人きりになった男女の言い分が、行為に至るまでの過程を巡って対立した。男性側の主張を丁寧に伝えた結果、裁判所は供述が「どちらも信用できる」として無罪を言い渡した。
同じ事象でも、目線によって写り方は変わる。「真実」は必ずしも一つではなく、それぞれの人から見たストーリーが存在するのだ。
被告が犯行を認めている事件でもそれは同じ。なぜ罪を犯したのかを探らなければ、また誰かを傷つけることになる。「被告側の物語を見て語れるのは弁護士だけ。報われることが少なくても、そこにやりがいや楽しさがある」
最近は個別事件に限らず、刑事司法の〝誤り〟で苦しむ人を減らすための活動にも手を広げる。裁判のやり直し手続きのルール化を求める「再審法改正実現大阪本部」で事務局次長を務め、冤罪救済を掲げる一般社団法人「イノセンス・プロジェクト・ジャパン」にも参加。無実の人が無実だと認められる-。目指すのは、そんな当たり前の社会だ。
年明けには独立し、事務所を開業。中心的に扱うのはもちろん刑事裁判だ。「コストパフォーマンスを考えず、一件一件の事件に、丁寧に徹底的に取り組む」。突っ走れば、人も結果も後からついてくる。そう信じて進むつもりだ。(西山瑞穂)