直接手を下さず踏切の中に誘導か…「板橋踏切自殺強要事件」で“殺人罪”は適用される?
被疑者らの行為と男性死亡に因果関係はあるか?
報道によれば、今回の事件では防犯カメラの映像により、踏切近くで被疑者らが乗った自動車が停車し、男性が電車にひかれた後に走り去っていたことが確認されている。 「捜査側は、被疑者らの関与によって、男性に危険が生じたと評価できると考えていると思われます。その“関与”がどのようなものだったのかは、今後の捜査によって『どの程度の支配力を持った行為』とされるかで変わってくると思います」(杉山弁護士) その上で「捜査中であり報道を元に推測することしかできませんが」と前置きしつつ、杉山弁護士は「いずれにしても、被疑者らが、男性が踏切に入り電車に引かれることを認容していたのであれば、死の危険をもたらす行為だと十分に理解しているでしょうから、被疑者らの行為は『殺人』や『自殺ほう助』に当たるとは言いやすいかもしれません」と整理する。 前述した通り、直接の死は踏切内に1人で立ち入るという男性の行動で生じている。 死を求める男性が線路に行くまでの移動を被疑者らが手助けしただけなのか。あるいは、自らの死を求める男性の“意思”すら、被疑者たちが生じさせたのか――。 「今回、捜査側は『殺人罪』として逮捕しましたが、今後、見立ての細部や証拠関係といったピースが変わることで、事件全体の構造も変わってしまう可能性があります」(同上)
弁護士「殺人で起訴し、法廷で争うべき」
ただ、今回の事件を考える上で参考になる判例がいくつかあると、杉山弁護士は紹介する。 「たとえばマンションで暴行を受けていた被害者が、高速道路に逃げ込み交通事故で死亡したケースです。被害者の死は、高速道路で車にひかれるという形で生じました。車の運転は、暴行をはたらいた被告人たちの行為ではありません。 しかし捜査機関は、被害者は激しい暴行から逃げるために危険な高速道路に立ち入らざるを得なくなったと評価して、『傷害致死事件』として起訴。裁判所も、マンションにおける暴行や監禁から、被害者の死がもたらされたとして、暴行・監禁と死亡の因果関係を認めました(最高裁判決平成15年(2003年)7月16日)」(杉山弁護士) また、保険金目当てに結婚相手を脅迫し、自殺させようとした被告に殺人未遂罪が成立した判例(最高裁判決平成16年(2004年)1月20日)や、長時間におよぶ監禁・暴行の末、被害者を東尋坊の崖から自ら飛び降りさせた被告人らに殺人罪が適用された裁判例(大津地裁判決令和2年(2020年)6月26日)もある。 こうした判例を挙げた上で杉山弁護士は、今回の事件についても「現時点でわかっている本件の状況からすれば、捜査側は少なくとも殺人で起訴すると思いますし、私もそうすべきだと思います」と見解を述べる。 「犯罪行為にピタリとあてはまるのを回避するような手段で、犯罪そのものの結果をもたらす今回のような事件こそ、時間をかけてでもしっかり取り締まるのが捜査機関の義務であり、少なくとも法廷で議論して争うべき案件だと考えます」(杉山弁護士)
弁護士JP編集部