「お前は1年間死んでいたのか」と元秘書を叱った…伝説の経営者・稲盛和夫が絶対に許さなかった"部下の行動"
“経営の神様”と呼ばれる稲盛和夫氏はどんな経営者だったのか。約30年間、側近を務めた大田嘉仁さんは「褒めると同時に“常に日進月歩が大切だ”と説いていた。人は褒められた瞬間に思考停止になってしまうことをよく分かっていたからだ」という――。(第3回) 【この記事の画像を見る】 ※本稿は、大田嘉仁『運命をひらく生き方ノート』(致知出版社)の一部を再編集したものです。 ■同じことを毎日繰り返してはならない 稲盛さんは、「人間だけでなく、この世のあらゆるものが一瞬として同じではなく、進歩進化を続けている。それは宇宙の意志でもある」と説かれていました。 確かに、私たちの生活を見ても、ここ十年ほどでも、デジタル化が急速に進み、誰もがスマホを使いこなせるようになりました。テレビも大型化し、EV(電気自動車)も増えています。 数年前のコロナ禍の際、コロナウイルスが日々変異を遂げていることを知り、驚いた人も多いのではないでしょうか。このようにすべてのものが日々進化を遂げている中で、自分だけが昨日と変わらない仕事をしているようであれば、それは後退を意味します。 稲盛さんは「俺は一瞬たりとも止まっていない」と言い、「同じことを同じように毎日繰り返してはならない」「昨日より今日、今日より明日と創意工夫を重ね進歩発展していくべきだ」と教えていました。 このことは当たり前のように思えますが、どうしても私たちは、何も変えないほうがいい、前例を踏襲すればいいと思いがちです。特に、一度褒められた仕事であれば、そこで満足して思考停止になることもあるように思います。 私自身、稲盛さんに「よくやってくれた」と褒められ、翌年も同じようにしたところ、「去年と同じことをしていて、生きているかいがあるか」と問われ、「お前は一年間死んでいたのか」「お前の生きている証はないのか」と詰問されて目が醒めるような思いをしたことを覚えています。 ■人は褒められた瞬間に思考停止する 考えてみれば分かることですが、いつも同じことをするのであれば、誰でもできます。私の価値は、すべての仕事を日々進化させることでしか生まれないのです。 しかし、単純な思考の私は、一度「よくやった」と褒めてもらうと、そこで思考が停止し、同じようにすることがベストだと勝手に思い込んでしまっていたのです。 現場においては、稲盛さんは「同じことを一年以上続けてはならない。日進月歩、そのためには現場の人を大切にすることだ」と力説していました。 稲盛さんと一緒に、ある工場の新しい生産ラインを視察した際、稲盛さんは「素晴らしい生産ラインだ。ありがとう」と褒めたあとで、「来年来たときに同じことをやっていたら許さんぞ」と釘を刺し、「これまでにできたものに安住すると進歩は止まるぞ」と注意をしていました。 人は褒められた瞬間に思考停止になってしまうことを稲盛さんはよく分かっていたので、褒めると同時にその先の進化を促す言葉を忘れない、これが稲盛さんの指導法なのです。