韓国文学が描く戦争・分断・民主化…激動の現代史を知る 書店員オススメの5冊
北朝鮮に出勤します――開城工業団地で働いた一年間
「北朝鮮の人」というイメージをひらく一冊 南北の経済協力事業で北朝鮮にできた開城(ケソン)工業団地の食堂で栄養士として働いた韓国人女性キム・ミンジュが、工場閉鎖までの約1年間の経験を綴ったノンフィクションエッセイ。 南の化粧品は質が悪いとこき下ろしていたけれどトイレで隠れて使っていた免税店で働く女性や、「一人だけでいるときは純朴そうに笑いながら頭を下げてあいさつし、二人以上になると目を伏せて無表情で通り過ぎ」ていく北の人たち。表面の裏にある、あらゆる自由を制限された体制下での状況を想像することで見えてくるもの。知り、理解していくことが対話への第一歩だと考えさせられます。おいしいものを食べたいし、家族にも食べさせてあげたいと願う、私たちと変わらない市井の人びと。普段ニュースの画面でしか見ることのできない「北朝鮮の人」というイメージをひらく、同じ時代を生きる私たちにとって重要な1冊です。(TOUTEN BOOKSTORE・古賀詩穂子)
韓国の今を映す、12人の輝く瞬間
韓国で刊行5年、14刷の名インタビュー集 ハンギョレ新聞に5年間連載された記事の一部を収録した本書には、社会の片隅で小さくとも確かな光を放つ12人の声が収められている。連載時期は2013年から2018年と少し前だが、各章ごとに、訳者で韓国生活30年の経験を持つライター、伊東順子さんによるミニコラムがあり、当時の時代背景やその後の韓国社会の変化を補足説明してくれる。インタビュイーたちの声からは、「セウォル号」「朴槿恵政権の腐敗と失脚」「加害者としてのベトナム戦争」といった歴史的事件のほか、医師不足の中、過酷な労働環境と闘う医師たち、性的マイノリティー、障害者との共生など今の韓国社会が直面するさまざまな問題が浮き彫りになる。それは韓国だけが抱えている問題ではなく、今の日本にも共通するものだ。社会を変える力を持っているのは巨大な権力だけではない。12人の声に耳を傾けてみると、期待とあきらめが混じっていたそんな考えも確信に変わる気がする。(CHEKCCORI・清水知佐子)