M&Aは事業承継の出口か=2024年を振り返って(7)
ブームのように取り上げられるM&Aだが、果たして売り手、買い手、社会の「三方良し」なのか。 2024年1-11月の「後継者難」倒産は430件(前年同期比8.0%増)で、12月を前に年間最多の2023年(430件)と並んだ。当然だが、企業が事業継続するには後継者が必要だ。そこで官民挙げて事業承継に取り組んでいる。 そこで中心的な存在として注目されるようになったのがM&A仲介会社だ。あるM&A仲介会社のホームページには、長年経営していた会社を売却し、その資金で老後を豊かに過ごす経営者がインタビューに答えている。会社売却は、そんな夢を実現できるのか。 M&A仲介会社に勤めるある社員は、「年末調整が不足するため、12月の給料はマイナスだ」、「来年の住民税が怖い」と漏らす。M&A仲介業界は高報酬で知られる。TSRが集計した「役員報酬・平均給与」調査(10月17日公表)では、業界大手が10年連続でトップに君臨している。 買収される企業はどうか。A社はこの6年間で30社以上を傘下に収めた。だが、そのうちの1社は従業員の大半が退職し、事実上活動を停止している。A社に買収された企業の元代表者は、「(A社から)運転資金の入金はなく、逆に資金の提供をさせられた。事業ができない」と憤る。A社が吸い上げた資金は、新たな次のM&A資金に流用されているのだろう。グループ全体で自転車操業の実態が窺える。 こうしたM&Aの実態が社会問題となり、業界団体のM&A仲介協会は「悪質な買い手」の排除に動いている。そこに独自の視点でM&A業界に一石を投じる起業家もいる。 MANDA(株)(TSR企業コード: 032425732)の創業者、森田洋輔代表は「買い手のオープン化」を掲げる。M&Aでの「情報の非対称性」の解消が業界の正常化につながるとの想いがベースにある。また、弁護士で、日本エクイティバンク(株)(TSR企業コード:035281715)の西尾公伸代表は、会社売却が中心の事業承継に疑問を呈する。資本と経営の承継タイミングをずらし、経営者が事業承継とより向き合える土壌を整えようとしている。 ステークホルダーのすべての利害が一致する事業承継は容易ではない。だが、多様なプレイヤーがそれぞれの価値観を生かし、サービスを提供して切磋琢磨する。まだ、M&Aの最適解を探す道の途中だ。