まるで「らんまん」主人公?絶滅寸前の希少植物の解明に奮闘する、科博研究員の仕事とは #ニュースその後
研究者は新たな植物を発見すると、学名をつけた1点の標本とともに学術論文などで報告し、それからはその標本がその種の基準となる。「タイプ標本」として保管され、採集地点は「タイプ産地」として記録される。1963年に論文が発表されたコマチイワヒトデは、鹿児島県北部で採集されたタイプ標本が東京大学に保管されている。海老原さんは、そのタイプ産地に生育するコマチイワヒトデに出会いたいのだが、悩ましいのは残された地名だけでは特定の地点を割り出せないことだ。現在はGPSで座標が記録されることが多いが、古い標本は地名が現在と異なったり該当範囲が広すぎたりして、特定に困るケースが珍しくないという。 今回の一連の調査では、鹿児島のほか、ここ数年コマチイワヒトデと思われるシダ植物が見つかっていた熊本県内も含め20カ所前後を回った。コマチイワヒトデのほか、比較するためのオオイワヒトデを採集した。標本にする形の良い個体は、地下にある葉の付け根の根茎(こんけい)からカットする。DNA解析のために複数の個体から葉を集め、採集地ごとに袋に入れ、GPSの地点情報と照合できるようにナンバリングする。やるべきことが多い現地調査だが、「最後に採集したものを忘れてくることがあるので、気をつけないと」と海老原さんは笑う。 調査中は、ホテルに戻っても採集したサンプルを持ち帰る準備で忙しい。標本にする個体はなるべく早く形を整え乾燥させたい。一つひとつ、はみ出さないよう注意しながら新聞紙に挟んでいく。DNA解析のための葉も、個体ごとに乾燥剤と袋に入れる。狭い室内での作業は、夜遅くまで続いた。
植物の正体を知る
調査から戻った翌日。科博の筑波研究施設にある海老原さんの研究室では、持ち帰ったサンプルの整理が始まった。「真のコマチイワヒトデ」と出会えたのかは、現地では断言できなかった。その答え合わせのためのDNA解析が始まる。 『らんまん』の主人公のモデルである牧野富太郎の時代は、色や形といった植物の見かけが、分類学における識別の基準だった。いまはDNAや染色体数を分析することで、見ただけでは分からない特徴までわかるようになった。海老原さんはそれを「植物側の裏の事情」と表現する。 DNA分析室には、採集してきたサンプル一つひとつから抽出されたDNAが、直径3ミリほどの細長い容器に入って並んでいる。分析室の研究員が、DNAからデータを取り出すための作業を進める。そのデータから、コマチイワヒトデが受け継ぐ遺伝情報やオオイワヒトデとの関係性を調べ、外見からはわからなかった両種を区別する「明らかな証拠」を突き止める。 2月初旬、DNA解析の結果が出た。熊本で採集したのはオオイワヒトデだった。鹿児島のものは一部に雑種が混じっていたが、DNAから「真のコマチイワヒトデ」と確認できた。絶滅のおそれがどれだけ大きいかを正確に評価するには、現地調査をさらに重ねなければならない。その効率を上げるため、見た目でも区別しやすくなるよう、見かけとDNAがどう対応するのかといった検証をしておくことが重要になるという。そのため、解析にはさらに時間がかかる。