木内登英氏「12月利上げ?」植田総裁“決断”の条件
日本銀行が12月18日、19日に開かれる金融政策決定会合で追加利上げをするのか。植田和男総裁が12月に利上げに踏み切る場合の条件は何か--。野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英さんの分析です。【毎日新聞経済プレミア】 日銀の植田総裁は21日、東京都内で開かれたフランスの金融シンクタンクなどが主催したイベントで質疑に答えた。12月会合での追加利上げについて「現時点で次の会合での結論を予期するのは不可能だ。まだ1カ月ほどあり、それまでに多くのデータや情報が出てくるだろう」と述べた。 市場では日銀が12月に追加利上げに踏み切るかが最大の関心事になっている。筆者は日銀の追加利上げは来年1月を標準シナリオとしている。しかし、12月になる可能性も従来に比べ高まっていると考える。 ◇「時間的余裕」を意図的に外した植田総裁 その理由は植田総裁が10月31日の金融政策決定会合後の記者会見で追加利上げについて、「時間的余裕はある」という表現を意図的に外して、その理由を詳細に説明したからだ。これは日銀が「利上げは近い」ことを示す明確なサインであり、軽視できない。 植田総裁は「時間的余裕はある」という表現を9月の決定会合以降、意図的に使っていた。これは次の決定会合では追加利上げを考えていないことを示唆する、新しい市場との対話手段となっていた。背景には石破茂政権が発足当初に追加利上げをけん制する動きを見せたことへの対応であり、それをかわす狙いがあったと思われる。 記者会見で植田総裁は「時間的余裕はある」という表現は夏場以降、顕在化した米国経済の下振れ、それに伴う円高、株安などの金融市場の不安定化のリスクに対応したものだと説明した。そして、10月初めに発表された9月分の米国雇用統計が上振れたことなどから、米国経済の下振れに関わるリスクは低下したと判断し、「時間的余裕はある」との表現をやめた、としている 日銀は「時間的余裕はある」という表現をやめたことで、12月会合での追加利上げの可能性があることを市場に伝えた。 さらに11月5日に投開票された米大統領選で共和党のトランプ氏が再選した。トランプ氏が掲げる減税、規制緩和などへの期待から、円安・株高が急速に進んだことも12月利上げの可能性を高めている。 ◇国内の政治情勢が追加利上げの制約要因 一方で政治や経済の情勢が非常に不確実であることから、日銀が12月の利上げに踏み切れるかは不透明感もある。 特に早期の利上げの制約要因は国内の政治情勢だ。衆院選で大敗した石破政権は経済政策全般で野党の意見をある程度、受け入れなくてはならない。特に国民民主党の協力を得るために、その経済政策の一部を受け入れることが求められる情勢だ。 国民民主党は金融緩和の継続を主張しており、日銀の利上げに強く反対している。玉木雄一郎代表は2025年3月の春闘まで利上げすべきではないとしている。金融政策は日銀が決めるとはいえ、政府からの日銀への働きかけや意見に国民民主党の影響が出てきて、一定程度制約される可能性がある。 ◇利上げのトリガーは「円安の進行」 仮に日銀が12月に追加利上げに踏み切るとすれば、そのトリガーとなるのは円安の進行だ。ドル円レートが1ドル=155~160円のレンジに入れば、政府は円安が物価に与える悪影響に配慮して、円買い・ドル売りの為替介入に踏み切ることが予想される。 そしてその際には政府は手のひらを返すように、円安阻止に向けて日銀に協調を求めて、追加利上げの実施を後押しする可能性が出てくる。 他方で、円安の流れが一巡する場合には不安定な国内政治情勢を考慮に入れて、日銀は年内利上げを見送り、1月会合での追加利上げを決める可能性が考えられる。現状では筆者は政治情勢と為替動向の微妙なバランスのなかで、この1月会合での0.25ポイントの利上げを標準シナリオとしている。 ◇利上げの到達点は最大1% しかし、日銀の追加利上げが12月や1月にあったとしても、それは最後ではない。筆者は日銀の政策金利は現在の0.25%程度から、最大で1%、標準シナリオで0.75%になると見ている。 政策金利の利上げの到達点は国内経済の動向で決まる。しかし、そこに到達するスピードは外部環境が大きく影響する。特にアメリカ経済や為替相場の動向が日銀の利上げのスピードを左右することになるだろう。年明け以降はトランプ政権の経済政策が重要な要素になってくる。