「AIの父」すら警鐘…「AIリスク」問題はなぜそんなに重要?軽視しては絶対ダメなワケ
AI活用に取り組む企業が「まずすべきこと」
一方で、AIリスクがあるからといって、AI活用にブレーキを踏んでしまうことは得策ではありません。冒頭で述べたように、AIを活用しないこと自体が企業にとってはもはやリスクであるからです。 AIは活用するもリスク、活用しないもリスクとなると、一体どうすれば良いのだと頭を抱えてしまうかもしれませんが、先進事例や2024年4月に経済産業省と総務省が公表した「AI事業者ガイドライン」などを参考にすることで、多くのヒントを得ることができます。 AI事業者ガイドラインは、日本におけるAIリスクマネジメントのスタンダートと位置付けられていますので、まずはこちらの内容から確認を始めてみるのが良いでしょう。AI事業者ガイドラインでは、各主体が取り組むべき共通の指針として、以下の10項目が挙げられています。 各主体が取り組むべき共通の指針 (出典:経産省・総務省「AI事業者ガイドライン」より引用) 指針の1つひとつは、決して新しいものではなく、記載されている内容も大きく異を唱えるものではないと思います。そして、10の指針のいくつかは、すでに多くの企業におけるリスクマネジメントとして取り込まれているのではないでしょうか。 このように、AIリスクはまったく新しいものではなく、根底にあるリスクマネジメントとしての考えは、既存の態勢が十分に活用できるものとなります。既存の態勢と整合性を取り、範囲を拡充していくことが重要です。リスクに対して過剰に身構えてしまい、リスクマネジメント自体が目的になることがないように注意を払う必要があります。 目的は、AIを活用し、企業としての競争力を強化していくこと、イノベーションを創出していくこと、そして、日本の国際的な競争力を高めていくことにあります。リスクマネジメントとは、これらを実現するための安心・安全なプラットフォームを提供することであり、1つの手段であることを忘れてはいけません。 昨今、Responsible AI(責任あるAI)という言葉をよく聞くようになりました。Responsible AIが意図している内容は、AIリスクマネジメントのみならず、積極的なAI活用を含めて、その両立を実現していくことだと当社は考えています。AI活用とリスクマネジメントを企業の重要テーマに掲げ、経営陣を含め全社一丸となり推進することで、Responsible AIを実現していくことが求められているのです。
〔参考文献〕 ・総務省「「AI事業者ガイドライン」掲載ページ」 ・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」
執筆:PwCコンサルティング トラストコンサルティング事業部 ディレクター 橋本 哲哉