AIエージェントの事例5選、ウォルマート、NEC、NTTデータの“面白い活用法”を解説
企業事例(4):ウォルマートの「取引先と交渉するAI」
製造業や小売店などの業種は、日々、膨大な数のサプライヤーから、さまざまな製品・資材などの調達を行っているが、その際、1社1社と価格交渉や納期調整などに多くの時間やリソースを割いている。ウォルマートでは、こうした複数主体との交渉・調整をAIエージェント同士に任せることで、業務負荷を軽減する取り組みを進めている。 このAIソフトウェアに予算やニーズを伝えると、過去の傾向や競合他社の見積額、商品原価の変動データなどをもとに、最適な購買金額をウォルマートのバイヤーに提示し、交渉を実施してくれる。スタッフだけでは数週間から数カ月かかっていた仕入先との交渉を数日に短縮できている。下図が、ウォルマートが活用したパクタム社のAIによるサプライヤーとの自動交渉の様子だ。 この取り組みは、調達する企業と、サプライヤーの双方がAIエージェントを活用している状態を作る必要があるため、短期間で採用することは難しい。しかし、ウォルマートのようなサプライチェーンにおいて影響力を持つ「サプライチェーンオーナー」がAIエージェント導入を取引条件とするようなことがあれば、一気に導入が進むかもしれない。
企業事例(5):NECの「AIエージェント同士の交渉」
NECは、サプライチェーンにおける調達企業とサプライヤーの価格交渉などを代わりに実施してくれる「自動交渉AI」を開発している。具体的には、企業の受発注においてのコストや納期のバランスを見ながら、両社にとってメリットのある形を探れるような交渉ができるAIを目指している。無理をして納期に間に合わせるのか、1日納期を引き延ばすかわりに若干値引きをするのかなど、あらゆる可能性を踏まえて交渉できるAIが目指すところになる。 すでに同社の開発した「自動交渉AI」は、電子部品の調達業務においては発注数量や納期変更が生じた際の取引先との交渉で、有効性が確認されている。 さらに自動車サプライチェーンにおける自動交渉にも取り組んでいる。顧客からディーラーに対して車種や納期などの希望が発生した場合、それに応えられる最短納期やメーカーの選定、購入価格を調整する。ディーラー側のAIとカーメーカーのAI、さらにはバッテリーメーカーやエンジンメーカー、シートメーカーなど幅広いサプライヤーの各AIエージェントが自動で交渉するという仕組みであり、相見積もとることもできるというものだ。 通常、必要な部品を希望納期に間に合わせるように調達交渉するとなれば、1週間はかかるほどの煩雑な仕事となるが、自動交渉AIであれば数十秒で実現できるようになり、顧客からの問い合わせにも、スピーディに答えることができるようになるという。 その他、下記などの物流や調達の用途において複数AI交渉の活用がなされている。 【複数AI交渉のユースケース例】 ・バラバラの配送システムを持つ運送会社間でAI同士の交渉により運送の相乗りや、配送ルート最適化や共同配送でのトラック台数削減によるCO2排出削減 ・航空輸送において輸送日直前まで需要予測をしながら逐次価格を自動交渉して設定し利益の最大化を図るダイナミックプライシング ・医薬品配送や漁場害獣監視のそれぞれの目的の異なるドローンのAI自動交渉による飛行計画・経路調整 NECは今後複数AIエージェントのメッセージ交換に関する標準化にも積極的に関与している。生成AIは新たな構造変化を生む中で、新たな標準化をリードしていくことも重要な戦略だ。