【#佐藤優のシン世界地図探索90】シリア軍・秘密警察から見限られて崩壊した「アサド独裁」
ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく! * * * ――シリアのアサド独裁政権の崩壊ですが、佐藤さんからいただいた資料によると、イスラエルの諜報機関・モサドもびっくりするくらいの出来事だったということで。 佐藤 そうです。だから、誰も想定していませんでした。 報道ではウクライナ軍との戦闘によって、ロシアからのシリア派兵兵力が少なくなったことがアサド政権崩壊の原因だと言われています。しかし、この見方は完全に間違っています。 シリア・アサド政権は、軍事力が不十分で国内統治ができなかったわけではありません。そして、ロシア軍もシリアの治安維持にあたっていたわけではありません。 ロシア軍(以下、露軍)は、IS(「イスラム国」)や自由シリア軍へのいわば"重し"でした。その露軍にとって、シリアにある空海軍基地はアフリカのマリ、ニジェールに出て行くための中継地としての役割を果たしています。だから、露軍とシリアの治安とは関係ないんです。 それから、「ヒズボラが弱くなったから」という言説もあります。しかし、シリアはヒズボラに統治を依頼していたわけではありません。ヒズボラのシリアへの関与は、イランに対する"場所貸し"です。ヒズボラにイランからの支援の通行路と地対空ミサイルの発射場所を与えているだけだということです。 ――その場所はすでにイスラエル軍が押さえましたね。 佐藤 はい。すると何が問題かというと、シリアの軍隊も秘密警察も十二分に力があったはずなのに、わずか12日間で崩壊してしまったことです。そして、なぜそうなったかといえば、途中から軍も秘密警察も、反政府武装勢力に対して抵抗しなくなったからです。特に、首都・ダマスカス入城に関しては顕著でした。 これは要するに、正規軍と秘密警察がアサド大統領を見限ったということです。今回の危機が発生した時、軍の士気が低かったのは「こんなバカ(アサド)と付き合っていたら、大変なことになる」という認識になっていたからです。それで、首相以下全員がアサドを見限り、崩壊したということです。 ――本来はすごく簡単だけど、それを難しく見てしまう、と。