【#佐藤優のシン世界地図探索90】シリア軍・秘密警察から見限られて崩壊した「アサド独裁」
佐藤 そもそも、シリアを見るポイントは、ネーションステイト(国民国家、またはひとつの民族で形成された国家)ではないということです。 アサドの独裁を支えていたのは少数派のアラウィー派でした。そして、このアラウィー派は、オスマン帝国解体によってフランスがシリアを統治するまで「被差別民」でした。フランスは、その植民地時代に被差別民だったアラウィー派に政治力を持たせる統治体制を選んだのです。だから、無理な統治体制が今に残っているのです。 そして、その少数派以外、シリアの大多数はキリスト教徒とイスラム教スンニ派です。つまり、アサド元政府軍は、アラウィー派というひとつグループにまとまりますが、あとはバラバラになるということです。 ――となると、アサド独裁が崩壊した後のシリアはどうなるのですか? 佐藤 結局、カダフィ政権が崩壊したときのリビアのような内戦状態になってくると思いますよ。今回反体制の中心である「シャーム解放機構」(以下、HTS)の前身はアルカイダですからね。 なので、今回のアサド政権崩壊は、トルコが米国に対して焚きつけたというようなことでもありません。アサドは統治力に問題があるとして、軍と秘密警察に見放されたんです。 ――HTSが「いまがチャンスだ!!」と思ってやった可能性はありませんか? 佐藤 逆に、いままでもそういった動きはたくさんあったと思いますよ。ところが、今回はシリア側の統率が本当にとれなくて滅茶苦茶な状態だったので、秘密警察と正規軍が見放したんだと思います。 ただし、露軍がしっかりしていて、本国からいつでも派兵できる余裕があれば、反体制派も警戒したと思います。確かに露軍が派兵できなかったことは遠因ではありますが、あくまで直接的な原因は、アサドに統治能力がなくなったということですね。 ――すると、中心にアサドの統治能力喪失、その周りに軍・秘密警察が見捨てたこと。一番外側に遠く露軍。こんな三層の円形図にできますね。