高齢化する戦争体験者「伝え残したい」 NHK戦争証言アーカイブス・プロデューサーに聞く(上)
戦争証言を伝える理由
メディアとして戦争証言を残していくこと。その理由について、太田氏は2つの意義があるという。 (1)オーラルヒストリー アメリカでは「オーラルヒストリー(口述記録)」という考え方の下、米国議会図書館が国民から動画や音声で寄せられた戦争体験者の証言を保管し、ネット上で公開している。証言は、部隊名や主たる戦場など必要な質問事項の様式が満たされていれば、どの国民でも送ることができる。そういうオーラルヒストリーを日本でも作り上げたいと考えた。 「国の貴重な体験した人のそれぞれの記録や歴史をきちんと残そうということが盛んに行われていて、そういう個々の体験がアメリカという国の歴史の一つ一つのパーツを組み合わせているんだなと感じる。僕らがやらなかったら、そういう声は残らないんじゃないかと思った」 (2)究極の失敗体験 戦争はある意味、究極の失敗体験ともいえる。「戦争は国や社会が大きな痛手を負って一つの失敗をした歴史だと思う。過去の失敗の歴史から何を間違えたのかを検証して、残していったり分析していくことがメディアとしての大きな役割だと思い、やってきた」。 3.11の際も「第三の敗戦」といわれることがあったが、大震災から3年以上たって、多くの日本人が忘れつつある。同じように戦争の痛みも、昭和20年代半ばが過ぎれば、国民は徐々に忘れていったという。 日本の戦争は同じ失敗を何度も繰り返していた。「ミッドウェー海戦の敗北やカダルカナルの壊滅などを軍部は正視しなかった。ある種の精神主義や楽観的な見通しに基づく作戦で失敗を繰り返し、修正されないまま敗北を重ねていったことが、兵士たちの証言からも分かる」。太田氏はいまを生きる日本人も、戦争という大きな失敗体験から学ぶ必要があると語る。
“封印された”過去
太田氏は、戦争を体験した人たちの中にある変化を感じるという。「自らの体験を伝え残したい」という強い思いを持つ人が増えてきたというのだ。証言者の中には、かなり凄惨な戦争体験をしてきた人もいる。目の前で戦友が命を落としたり、飢餓状態の中、生きるために、背負っていた戦友を置き去りにしてしまい、その悔恨の思いや負い目を抱えていたりする。 太田氏は「10年か20年前までは、そういった方々は『語りたい』という気持ちをお持ちではなかった」と話す。自分の過去の“傷”に触れたくない思いや、語ることで他の戦友を傷つけてしまうのではないかという気持ちから「自分の戦争体験を封印してきた方が多い」のだという。