ダニ媒介性脳炎は致死率が20%以上…アウトドア好きは知っておきたい
山登り、キャンプ、山菜採り、ハイキング、釣り、ゴルフ……。野外活動が多い人が知っておきたいワクチンが、ダニ媒介性脳炎ワクチンだ。 “コロナ明け”だからこそ注意したい健康トラブル<3>【毒虫】拡大中のマダニ対策を徹底したい 野山、草むら、やぶ、あぜ道、河川敷、畑、庭など、ごく身近な場所に存在するのが、ダニの一種のマダニだ。動物や人に噛みつき吸血する。 危険なのは、病原体を持つマダニに吸血されて人が感染すること。近年、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)、ライム病、日本紅斑熱が増加。いずれも予防のワクチンはまだなく、マダニに噛まれないようにすることが一番の対策となる。一方、ダニ媒介性脳炎は1970年代からワクチンが欧州を中心に利用されており、3月には日本で初めて承認。9月から国内ワクチンが臨床現場で使われている。 「ダニ媒介性脳炎は70~98%は不顕性感染(感染しても発症していない)ですが、ダニ媒介性脳炎ウイルスの遺伝子型のうち、日本で見られる極東亜型はほかの型と比較して致死率が高く20%以上。後遺症も30~40%と高い。典型例としてマダニに噛まれた7~14日後に発熱、頭痛、筋肉痛、悪心、嘔吐などが現れ、髄膜脳炎に進展する」 こう言うのは、ダニ媒介性脳炎に詳しい新潟市民病院総合診療内科副部長の児玉文宏医師だ。 44歳男性は2016年7月14日、札幌市近郊のやぶで左腹部をマダニに噛まれ、翌15日にクリニックを受診。22日、腹部から太ももにかけての違和感が現れ、その翌日には38度の発熱、筋肉痛、関節痛も出現。25日、マダニを媒介して感染するライム病による脊髄神経根炎を疑われ、児玉医師が当時在籍していた市立札幌病院に入院。27日には呼吸筋障害で呼吸器不全状態となり人工呼吸管理を開始、28日には全身性けいれんを発症して8月13日には死亡となった。 ■国内に広く分布している可能性 ダニ媒介性脳炎は世界で毎年1万~1万5000件の発生が報告されているものの、日本ではほとんど報告がなかった。 「感染症法で届け出が必要となっており、1例目の報告が1993年で、2018年までで5例。そして今年2例の発生が報告されました。7例とも北海道で発生しており、しかし5例目以降しばらく報告がなかったことから、北海道で感染症を診る医師の間でも、ダニ媒介性脳炎の認識がかなり薄れていたのです」(児玉医師) ところが、ダニ媒介性脳炎の診断に至らなかった人を対象に血液中の抗体を調べる血清疫学的研究を行ったところ、北海道内はもとより、東京、岡山、大分でも、ダニ媒介性脳炎だった可能性を示す抗体陽性者が確認された。また、栃木、富山、島根、長崎という北海道以外の地域で、ダニ媒介性脳炎ウイルスを持つ可能性がある野生動物も確認された。 「北海道のみ、と考えられていたのが、血清疫学的研究の結果によって国内に広く分布している可能性が示唆されました」(児玉医師) 今年になってなぜ2例立て続けに発生したのか、北海道以外の地域になぜダニ媒介性脳炎ウイルスが広がっているのか、はっきりしたことは分かっていない。札幌市でダニ媒介性脳炎ウイルスのワクチン接種を行う「おひげせんせいのこどもクリニック」の米川元晴院長は「野生動物と人間のエリアが近づいてきているのが一因では。札幌には大きな公園が複数あり、子供たちも遊びに行っているが、そういう場所でマダニに噛まれる危険性は十分にある」と指摘する。 マダニは前述の通り複数の病原体の媒介になるので、マダニ対策として、野外では肌の露出を極力なくす。上着や作業着は家の中に持ち込まない。シャワーや入浴でダニがついていないかを確認する。 ダニ媒介性脳炎に関しては、有効な治療薬がなく、ワクチンが強力な武器となる。児玉医師、米川医師ともに言うのが、「だれもに勧めるものではないが、野外活動をよく行うなどマダニによく噛まれる環境にある場合は前向きに検討することを勧める」。ワクチンは1歳から接種可能だ。