「フェースが開く?」「振り遅れる?」実はメリットだけじゃない! 24年の頻出ワード「高慣性モーメント」「10K」をおさらい
慣性モーメントとは「物体の回転のしにくさ」を表す指標
2024年、ドライバーのヘッドで話題となったのが「高慣性モーメント」という言葉です。その中でもテーラーメイドの「Qi10MAXドライバー」やピンの「G430MAX10Kドライバー」の登場によって「10K」という新たな言葉も聞かれるようになりました。こういった言葉を聞くと何となく曲がらないクラブなんだろうなというイメージを持つ人は多いと思いますが、具体的な内容まで理解している人は少ないと思います。今回は今年の頻出ワードである「慣性モーメント」について、改めて詳しく解説しようと思います。 【写真】安くても飛びついちゃダメ! これがフジクラが公表したベンタスシリーズ模造品の特徴です
そもそも慣性モーメントは物理で登場する用語です。大まかに言えば「物体の回転のしにくさ」を表す指標となります。MOIとも言われ、単位はグラム立方センチメートルです。これをゴルフのヘッドに置き換えると、スイング中のクラブフェースの開閉のしにくさということになります。つまり高慣性モーメントになればなるほど、スイング中にフェースの向きが変わりにくいのでボールが曲がりにくくなるという説明になるのです。 こう考えるととにかく高慣性モーメントのヘッドを作れば良いという発想になるのですが、残念ながらそう簡単なものではありません。というのも、ボールの曲がりに一番影響を与える「ヘッド左右慣性モーメント」は、R&Aのルールで上限が5900グラム立方センチメートルと決められているからです。この「ヘッド左右慣性モーメント」はヘッド内部にある重心を中心としてヘッドが横に回転しやすいかどうかを示しています。もちろんこの数値は外から見えるわけではなく特殊な機械でないと測れないものですが、メーカーサイドはこのルール内でできるだけ曲がらないヘッドを作ろうとしているのです。 では「10K」と言われるモデルは何かという点ですが、これは先ほど話した「ヘッド左右慣性モーメント」と「ヘッド上下慣性モーメント」の2つの数値の合計が10000グラム立方センチメートルを超えるクラブを指します。ちなみに「ヘッド上下慣性モーメント」はインパクトでフェースが元々のロフトよりどれくらい上下しているかを示している数値で、こちらは特にルールの上限はありません。しかしこの数値が大きい方が出球が安定し、強いボールが打ちやすくなります。つまり今年話題になった「10K」ドライバーは左右はもちろん、上下のブレも少ないとにかく曲がらないドライバーの代表と言っても過言ではないのです。 ここまでの話を聞くと高慣性モーメントドライバーはメリットしかないように聞こえますが、もちろんそんなことはありません。今まで話した内容はあくまでもクラブの物理的な話です。扱うのは人間なわけですからそれがかえって邪魔になることもあります。例えば上級者に多いのですが、コースによってボールを曲げたいゴルファーは高慣性モーメントのヘッドはフェースの開閉がしにくいのでかえって扱いにくいドライバーとなります。 また、私のフィッティングデータでは高慣性モーメントのヘッドを打ってもらうと振り遅れるゴルファーが非常に多いです。ヘッドが開閉しないことでフェースが開いたままボールに衝突し、結果プッシュアウトやプッシュスライスを打ってしまいます。つまり、高慣性モーメントのクラブはフェースをボールに対してある程度真っすぐにぶつけることができる人にとって最大限の恩恵を与えてくれるクラブと言えるでしょう。 うたい文句だけを見てなんでもかんでも慣性モーメントが高いクラブを選ぶのではなく、自分のスイングのクセを理解した上でヘッド選定をすれば、その人にとってより曲がりにくいクラブに出合えると思います。
【解説】石井 建嗣(いしい・たけし)
香川県丸亀市で「ゴルフショップイシイ」を営むクラブフィッター。フィッター界の第一人者である浅谷理氏に師事し、クラブ&パターフィッター、TPIインストラクター、ゴルフラボ公認エンジニアの資格を持つ。ゴルフはHDCP「9.9」の腕前だが、自身のプレーより他人のクラブを“診る”ことに喜びを感じる職人肌。出演するYouTubeチャンネル「ズバババGOLF」では軽快なトークで人気を集める。
石井建嗣