体操団体、挫折から這い上がった2人の選手が金メダルの立役者に。大怪我の功名、そして3年分の思いを込めたガッツポーズ
その成果は、パリオリンピックの代表選考会で表れる。怪我をする前の2022年と2024年の点数を比較すると、その差は一目瞭然。1点近く点数が上がっていた。 なぜ、ここまで得点が上がったのか? 岡:「2年前は本当に力技ができていなかった。この2年間で力技の数を増やして、秒数や姿勢を意識して、自分の得意な倒立と下り技もしっかり磨いてきました」 2022年と2024年の技の構成を比較してみると、2022年は技の数が9個だったのに対し、2024年は上限いっぱいの10個。 さらに、技の難度も2年前はBやCが多かったが、2024年はE難度が2つ入り、難しさを表すDスコアが1点も上がった。リハビリ期間中の上半身強化が、より高難度の技を実現可能としていたのだ。 所属チームの監督で、アテネオリンピック団体金メダリストの米田功氏も岡の成長に目を見張った。 米田氏:「怪我をしてリハビリをしている期間のなかで、つり輪に関しては膝関係なくトレーニングができるので、1年分技術的にも筋力的にもグレードが上がった」 迎えたオリンピック最終選考会。 多くの観客が詰めかけるなか、岡はここでもつり輪で高得点を出し、後続を引き離した。 そして、すべてが決まる最終種目の鉄棒で、2位に1点以上の差をつけ初優勝。全治8か月の大怪我から這い上がり、念願だったオリンピック代表の座を勝ち取った。 このとき、岡はこう話していた。 岡:「団体の金メダルは絶対獲らなきゃいけないので、それにふさわしい演技とみんなが安心して見られるような演技をここからの練習でやっていけたらなと思います」
◆0.1点に泣いた悔しい経験が原動力に
そして、団体金メダルのもうひとりのキーマンが、あん馬と鉄棒のスペシャリスト・杉野正尭。 杉野:「鉄棒は日本一でありたいし、世界一でありたいし、そういう思いは常に持って練習にも取り組んでますし、試合に向かうときも絶対成功させるという思いでやっています」 杉野が得意とする鉄棒は団体戦の最後に行われるため、金メダル獲得には重要な種目。水鳥強化本部長も杉野に期待を寄せていた。 水鳥氏:「杉野選手も世界チャンピオンの橋本選手もいるので、最後鉄棒で逆転するという、そんな流れがシナリオとしてはあるんじゃないかな」 そんな杉野は2021年、東京オリンピックの代表を決める最終選考会で悔しい経験をしていた。 初のオリンピック出場を目指し、挑んだ鉄棒の演技。代表入りには自己ベストを超える15.1点が必要だった。 難度の高い技を入れ込んだ攻めの構成で挑み、ノーミスの演技を披露したが、得点は無情にも0.1点足りず。代表落選していた。 わずかな差に泣いた杉野が、ここからパリオリンピックに向けて取り組んだのが…。 杉野:「今のままじゃダメだ、現状維持だと絶対届かない。鉄棒が自分の武器となるように、 “ぺガン”の練習に取り組みました」 これまで日本人で成功者はいなかった「ペガン」。F難度の大技だ。 鉄棒の技の多くは前向きで回るが、ペガンは後ろ向きで回り、空中で前向きに戻る数少ない技のひとつ。