「走るホテル」の最上級クラス、110万円払って乗り込むVIPたちの正体は… 北米大陸横断列車、カナディアン乗車記②「鉄道なにコレ!?」【第58回】
女性は「うちの夫は日本語も話すことができるの。日本のアニメや映画などのコンテンツに興味があり、すごく高額なプライベートレッスンで日本語を習得したのよ」と教えてくれた。訪日したこともあり「長野や新潟、札幌などに行った」という。 食堂車での夕食に向かうために女性を迎えに来た夫は、私を見るなり「初めまして」と流ちょうな日本語で語りかけてきた。 ▽バーテンダーもコンシェルジュも、一人二役の乗務員 一方、別のインド系とおぼしき男性はバーカウンターで女性乗務員にジンを注文すると、こう切り出した。「バンクーバーに着いた後に2日間でバンクーバー島やウィスラーなどを巡りたいんだ」 プレスティージ寝台車クラスを担当する乗務員はバーテンダーだけではなく、コンシェルジュの役割も担う一人二役なのだ。 男性の話を聞いた乗務員は「バンクーバー島を移動するには時間がかかり、ウィスラーはバンクーバー島から離れています」と解説した。隣席にいた私は、乗務員が「どちらかに絞った方がいい」と示唆しているのだと受け止めた。
名前が同じなのでややこしいのだが、バンクーバー島はバンクーバーの西側にある島だ。バンクーバーから訪れるには船舶や水上飛行機に乗る必要があり、世界で43番目に大きい島なので周遊するには時間がかかるというのは説明していた通りだ。 これに対し、スキー場などがある保養地のウィスラーはバンクーバーからバスで約2時間かかる。しかもバンクーバーの北にあり、バンクーバー島とは方角が異なる。 ▽同じ列車で旅をしても、〝ドヤ顔〟に見えた境遇差 すると、男性はまるで〝魔法の杖〟を取り出すかのごとく「そこで、プライベートツアーを手配してもらえないだろうか」と乗務員に依頼した。「バンクーバーでの短い時間を無駄にはできないのでね」と付け加え、時は金なりと言わんばかりの口ぶりだ。 乗務員は納得した様子で、手元の電子機器の端末を操作し始めた。男性がジンを手にくつろいでいるうちに、「予約が取れました」と報告した。
プライベートツアーの手配を終えた男性の表情が、対照的な境遇の私には〝ドヤ顔〟に見えて仕方がなかった。カナディアンでの男性の客室がプレスティージ寝台車クラスなのに対して私は寝台車プラスクラス、飲んでいるのはジンに対してコーヒー、そしてバンクーバー到着後の移動手段はプライベートツアーに対して鉄道やバスの公共交通機関なのだから…。 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください!