「ちゃんと触れていかないと、母の尊厳を回復できない気がした」画家・弓指寛治さんが語る、亡き母のこと #今つらいあなたへ
母の死から6年経った。苦しみが消えてなくなることはないが、ある程度制御下におけるようになった。今も「自死遺族として話してほしい」という依頼は断らない。 「こうして活動していくなかで、自分がサンプルのようになればいいと思ってるんです。どう考えても自殺するような人じゃない人が死にたいと思い詰めてしまうのがうつの怖いところやし、人間のわからへん部分やったりする。自分は大丈夫やと思っとっても、いつそうなるかわからへん。だから、今は弓指の作品を『へえ』みたいな感じで見てる人でも、いつか何かのタイミングで思い出したときに、『こんなふうに向き合えることもあるんだ』と思ってほしいんです。 (この記事を読んでいる人に)直接的にメッセージを送ることはできないです。ただ、ぼくは、死にたいと言って死んでしまった人を否定することはしません。残されて苦しむ人にも、めちゃめちゃわかるよ、ということだけを思っています」
--- 弓指寛治(ゆみさし・かんじ) 芸術家。1986年、三重県生まれ。名古屋学芸大学大学院修了後、学生時代の友人と名古屋で映像制作会社を起業。2013年に代表取締役を辞任し上京、作家活動を開始。2016年、母の自死について描いた作品「挽歌」で、ゲンロン カオス*ラウンジ新芸術校第1期金賞受賞。2018年、80年代にその死が社会現象になったあるアイドルを描いた《Oの慰霊》で、第21回岡本太郎現代芸術賞岡本敏子賞を受賞。2019年、あいちトリエンナーレに「輝けるこども」で参加。主な個展に「四月の人魚」(ゲンロン カオス*ラウンジ五反田アトリエ、2018年)、「ダイナマイト・トラベラー」(シープスタジオ、2019年)など。 --- 長瀬千雅(ながせ・ちか) 1972年、名古屋市生まれ。編集者、ライター。