デ・ゼルビが起こした革新と新規軸。ペップが「唯一のもの」と絶賛し、三笘薫を飛躍させた新時代のサッカースタイルを紐解く
なぜブライトンのGKは足裏でボールを止めるのか?
動的優位性とはなんだろう? サッカーの試合では重要な局面で相手よりも動きのダイナミックさで上回ったほうが優位な状況を作れる。足を止めた状況やターンをして動き直してからダッシュを開始するよりも、助走をとったうえですでに勢いに乗った状態でボールを追ったほうが優位に立つことができる。シュリッツの説明が続く。 「サッカーの試合では相手よりもこの動的優位性で上回るために、いつ、どこで、どのようにギアをアップさせるのか。あるいはいつ、どこで、どのように相手のギアをダウン、あるいはストップさせてしまうのかが重要なファクターになります。この部分を意図的にどこまでチームとして共有できるかで、チームとしての成熟度には大きな差が出るといえます」 一例としてシュリッツはブライトンのビルドアップのシーンを動画で紹介し始めた。GKがボールを持つとペナルティエリアすぐ外までボールを運び、そこで足裏でボールを止めて様子をうかがっている。両隣りではセンターバックが同じように足を止めてスタンバイ。シュリッツがこのシーンを次のように強調していた。 「足裏でボールを止めるのはデメリットがあるとされています。動き直してパスに移るのに少しテンポが遅れるからです。優れた守備能力を持った選手はその隙を逃さずにボールを奪いに距離を一気に詰めてこようとします。デ・ゼルビはそこを逆に狙っているわけです。相手に食いつかせるのが狙いといえます」 最終ラインで奪われてしまっては元も子もないので、相手との距離感には細心の注意が払われている。相手FWが動き出した瞬間を逃さずにパスを受ける準備ができている味方へボールを渡して、相手のプレスをかいくぐるというやり方だ。かいくぐった後の一手も丁寧に準備がされている。 「この時、デ・ゼルビサッカーで大事なのは相手がプレスをかけてきているサイドへパスを逃がすという点です。相手チームは片方のサイドへのパスを出させないようなコース取りでボール保持者にプレッシャーをかけて、自分たちがボールを奪いやすい場所へ誘い込もうとします。でも逆にいうと、そこへは相手守備は配備されていないことを意味します。相手がボールを持つGKへのプレスへと動き出した瞬間、同サイドのセンターバックやボランチがパスをもらえる位置へすっとポジショニングを取り、そこからドリブルやパスですぐにボールを縦方向へ運んでしまうのです」(シュリッツ)