デ・ゼルビが起こした革新と新規軸。ペップが「唯一のもの」と絶賛し、三笘薫を飛躍させた新時代のサッカースタイルを紐解く
マルセイユでどのようなデ・ゼルビ・サッカーが見られるのか?
ポゼッションをしながらボールを展開するときに多くの指導者は「フリーの選手を探せ」というふうに選手にアプローチする。そして「シンプルにフリーの選手を生かして展開すれば、相手守備にズレが出てくる」と続ける。間違った話ではない。ただ、この「フリー」という概念は、どういう状況にいる選手を指すのかが、チーム内で共有できていないと思うような展開力にはつながらない。シュリッツは続ける。 「フリーというのはその選手の周りに相手がいない状況ということだけではなく、オープンな立ち位置をとれているかどうか、すなわち体をゴールへ向けた状況かどうか、そしてパスを通せる位置にいるかどうかが重要になります。フリーで、オープンな立ち位置で、パスを通せる選手を探しながら、ボールを回し、その選手がスムーズに推進力を入れられるように、意識的に前の足へとパスをつけることが徹底されていました。そうやって攻撃のスイッチを入れるのがデ・ゼルビ時代のブライトンは本当にうまかったですね」 そしてボールを奪われたら競り合いで圧倒的な積極性を見せながら即時奪回していく。三笘がブライトンで重要な役割を担っているのは、こうしたデ・ゼルビサッカーへの相性のよさと順応性の高さがあったからだろう。0から100へと一気にトップギアを入れることができるし、プレスバックでしっかりと自陣まで何度も戻ることができる。スペースへと飛び出すセンスに優れており、相手を引き連れて走ることで味方にビッグチャンスを提供することもできる。逆サイドで起点を作っているときにはタイミングよくゴール前へと侵入するので、決定機に絡む頻度もとても高い。 迎えた2023-24シーズンは相手チームからの研究も進み、出足を封じられたり、マンマーク気味のDFの裏をかいくぐられたりして順位も9位へと落とした。だがデ・ゼルビサッカーが脅威になったからこそ、そこから新たな対策が生まれたわけでもある。一つのトリガーとしてサッカー史に名を刻んだといっても過言ではないだろう。実際昨シーズン、ブンデスリーガで無敗優勝を果たしたシャビ・アロンソ監督率いるレバークーゼンは今回紹介したデ・ゼルビのブライトンのサッカーを参考にした仕掛けがいくつか見られた。 サッカーはこれからさらにどんなふうに進化していくのだろう。ブライトンの新監督には、プレミアリーグ史上最年少監督となった31歳のドイツ人指揮官、ファビアン・ヒュルツェラーが就任。そしてフランスに新天地を求めたデ・ゼルビはマルセイユでどのような取り組みを見せてくれるのだろう。興味は尽きない。 <了>
文=中野吉之伴