月間販売数15万食!割烹料理の技が光る人気弁当店 大手に負けない戦略とは
和食の技、伝統野菜、健康志向~大手に負けない!弱者の戦略
〇升本流弱者の戦略1~割烹料理のノウハウで品質アップ。 東京・墨田区の弁当工場「升本健康厨房」では、割烹料理店ならではの和食の技を随所に取り入れている。 例えば7種類の野菜が入った煮物は、食材ごとに煮方や味つけを変えている。たけのこは肌の白さが残るよう薄い色で味をつけ、逆にれんこんは色を付けるため、色が濃いたまり醤油を使う。 にんじんは素材の甘みを生かすため醤油は控えめ。こうして別々に炊いた食材を一つに盛りつける「炊き合わせ」という手の込んだ和食の調理法だ。 「全部違う味に仕上げているんです。そこが料理店の仕事で、それぞれに合った味付けがあるからです」(総料理長・向後信之)
だしが染み出る玉子焼きは1本1本、職人が手作り。 多い日は5000本も焼くという。ポイントはあえて中まで火を通さないこと。焼いた後にスチームで蒸す工程を加えている。 「スチームで蒸すことで水分も含んでくるので、食べた時にジューシーになる」(向後) かまぼこなどの練り物も手作り。使うのは「たまもと」と呼ばれる隠しアイテムだ。卵黄にサラダ油を少しずつ入れて混ぜていく、マヨネーズから酢を抜いたようなもの。この「たまもと」と片栗粉をつなぎに使うことで、プリッとした食感が生まれる。 こうした料理屋の手間暇をかけたやり方で、品質の差別化を図っているのだ。 「何から何まで手作りでやっているので、ここまでは(他社は)絶対にできないと思います。やれるものならやってみろ、という感じです」(向後)
〇升本流弱者の戦略2~農家とウィンウィンな関係を 升本の全ての弁当に欠かさずついているのが亀戸大根のたまり漬けだ。 亀戸大根は江戸時代の後期から亀戸周辺で栽培されていた江戸東京野菜の一つ。長さは30センチほどと小ぶりで、身も細いのが特徴だ。52種類ある江戸東京野菜だが、ふだん目にするのはほんの一握り。塚本はその一つ、亀戸大根を今に残そうとしている。 「亀戸でお店をやっていて、地産地消で亀戸大根。これは大手はやらない。亀戸のオンリーワンじゃないですか」(塚本) 升本で使う亀戸大根を栽培しているのが東京・江戸川区の「中代農園」。冬場の栽培は亀戸大根だけ。11月から4月ごろまで月に約2000本を収穫し、その全てを升本が買い取っている。 「昔の野菜を作るという機会を与えてもらって非常に助かっています。升本さんのように大量に引き取ってくれるところがないと、農家自体は作れないんです」(中代正啓さん) 農家にとっては、一定の値段でまとめて買い取ってもらえれば収入も安定する。升本も江戸の伝統野菜を使うことで、店の看板としてアピールできるのだ。 「『ここの温泉のお湯を使って作った温泉饅頭、うまいんです』と言ったら食べるじゃないですか。その場所に来た時の喜びでもある。そういう感動を味わってもらいたい」(塚本)