公共交通「赤字か黒字か」の議論からどう脱却? 鉄道・バスのサービス水準を可視化、オーストリア・PTSQCという指標
■ 「公共交通は黒字であるべき」は世界の非常識 そもそも、「赤字が問題」という点にばかり注目が集まるのは不思議な話である。我々の生活や産業に必要なインフラがすべて黒字かというと、決してそんなことはない。 道路は一部の例外を除いて無料で、「収支」を考えたら大赤字である。学校や図書館のような教育や、ごみ回収のような公衆衛生だって同様である。 公共交通だけが黒字を求められるというのは、上に書いた第二、第三の機能を考えれば、そもそもおかしな話である。 公共交通が黒字で当たり前というのは、「ニッポンの常識・世界の非常識」である。その背景は、おそらく、東京や大阪の鉄道会社が、たとえ民間事業者であっても、不動産事業なども兼業しつつ、黒字を出せることが強く影響しているのだろう。 しかし、埼玉や千葉、神奈川なども含めた人々が日常移動する範囲をカバーする東京都市圏は、約3700万人もが住む、突出して人口の多い世界最大の超巨大都市圏である。 大阪や京都、神戸を含む関西圏も人口が約1900万人で、世界で第10位前後に位置する。名古屋を中心とする中京圏だって、人口は1000万人に迫る。これはシカゴよりも多く、ロンドンやパリに比肩する。 こうした人口が多く人口密度も高い巨大都市では、その人の多さゆえに、公共交通でも黒字を出せてしまう。しかも、上に書いた第二、第三、そして第四の機能を全うしても、黒字が出せてしまうのである。 しかしこれは例外中の例外であるといってよい。日本の人口の半分が三大都市圏に集中しているから、つい公共交通は第二~第四の機能を全うして黒字を出せるのが当然だと多くの人が錯覚してしまうが、三大都市圏は世界から見れば相当な特殊例である。 それ以外の都市や地域で、公共交通が、第一から第四の機能を、黒字を出しながら全うする状況を目指そうとするのは、かなりの無理がある。