公共交通「赤字か黒字か」の議論からどう脱却? 鉄道・バスのサービス水準を可視化、オーストリア・PTSQCという指標
■ 「交通空白地域」をきめ細かく見ること 第二、第三の機能を公共交通が全うするには、人々の住まいや、就業先などの目的地が、公共交通でアクセスできないことには始まらない。自動車と違って、公共交通は、駅や停留所という、いわば「点」でしか乗り降りできないという決定的な短所がある。 しかも、駅や停留所まで何時間も歩くわけにはいかず、距離や時間には限度がある。かといって、誰もが駅や停留所のすぐ近くに住めるかというと、そうはいかない。駅や停留所からの距離で、公共交通の使い勝手はずいぶん違う。 国土交通省が「交通空白地域」という考え方を示していて、これは駅や停留所から一定の距離の中か外かで、公共交通サービスが「ある」「ない」を判断する、いわば白黒(バイナリ)の指標である。 何もないよりはましだが、第二・第三の側面のポテンシャルに関する議論に資するほどのきめ細やかさとはいえない。 重要なことに、公共交通は時刻表に従って走るという性質がある。三大都市圏のような巨大都市圏なら列車は数分に一本来るが、たいていの場所では待ち時間なしにいつ何時でも乗れる、というものではない。 冒頭に紹介したような1時間に1本のサービスと、何時間も間隔があくサービスでは、公共交通の使いやすさはだいぶ違う。要するに、運行間隔によって、公共交通の使い勝手はずいぶん違うのである。 またバスしか来ないのか列車が来るのかでも安心感やクオリティがずいぶん異なる。オーストリアでは鉄道路線を廃止して同じ本数のバスに転換したら、それだけで利用者が3分の1にがた減りしたところもある。バスと鉄道では公共交通の受容性が大きく異なることを示す例だ。 こうした、運行間隔や発着するサービスの種類によって、きめ細やかに検討すること。これが第二・第三の側面のポテンシャルを議論するためには欠かせない。
■ 公共交通サービス水準を地図上で可視化する欧州 さらに、上に挙げた国土交通省の指標では、駅や停留所からの「一定範囲」となっていて、具体的にどの程度かは明示されていない。計算例で1kmや500mといった例示があるのみである。 「住んでいる場所」あるいは「目的地」の観点でみれば、駅や停留所に近ければ近いほど、公共交通の利便性は高くなる。逆に、駅や停留所から離れれば離れるほど利便性は下がるし、ある程度の距離を超えてしまうと日常では使いたくとも使えなくなってしまう。 この性質を十分に加味して、地図の上に表示できる形で、「公共交通のサービス水準」を議論に使える形で上手にクラス分け・分類する手法を開発し発展させてきたのが、スイスとオーストリアである。 これらの国々ではこの指標が全国で計算されていて、さらにドイツなど近隣諸国へと展開する作業も現在進んでいる。 この分類法を、ドイツ語で ÖV-Güteklasse (ÖVはÖffentlicher Verkehr の頭文字で、公共交通を指す)、英語では Public Transport Service Quality Classificationの頭文字からPTSQCと呼んでいる。次回は、これを詳しく紹介したい。
柴山 多佳児