ハリス氏のリベラル色(左派色)が米大統領選挙戦の強みにも弱みにもなる
中絶問題でハリス氏は支持を集める
ハリス氏のリベラルな姿勢が、最終的に国民にどのように評価されるかが、大統領選挙の結果に大きな影響を与えるだろう。中絶問題で女性の権利を守るというハリス氏の姿勢は、総じて好意的な評価を得ている。 2022年の最高裁判決で憲法上の中絶の権利が覆って以降、ハリス氏は積極的なキャンペーンを展開してきており、中絶手術を行う医師や中絶経験のある女性ともホワイトハウスで面会している。 ハリス氏は、2022年の中間選挙では、中絶の権利を巡る争いが共和党の敗因になったと考え、人工妊娠中絶の権利を大統領選に向けた活動の中心に位置づけているのである。 他方で共和党は、この問題で歯切れの悪い発言に終始しており、守勢に立たされている。トランプ氏が、中絶に関して保守的な主張をしてきたバンス氏を副大統領候補に選んだことも、裏目に出ている面がある。バンス氏は母体の生命に関わる場合のみを例外として、中絶を全面禁止することに支持を表明している。 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の最新世論調査によると、中絶問題への対応能力が勝っているのはハリス氏だと考える有権者は51%となり、トランプ氏を選んだ有権者の33%を大きく上回っている。
トランプ氏は移民問題でハリス氏を攻撃
一方、移民や経済などの問題ではハリス氏の評価は後れを取っている。移民受け入れに対するハリス氏のリベラルな姿勢は、トランプ氏の格好の攻撃材料になっている。トランプ氏は、ハリス氏が不法入国者に寛大であるとして、「彼女が大統領になれば、国が破壊される」と危機感をあおっている。 このように、ハリス氏のリベラルな姿勢は、選挙に向けて「強み」にも「弱み」にもなっている。さらに、勝敗の鍵を握るラストベルト(錆びた地域)、その中でも特に重要な「青い壁」3州(ペンシルバニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州)では、より経済問題の重要性が高いと考えられる。トランプ氏は、ラストベルトの白人労働者層の生活に大きな打撃を与えているインフレ問題は、バイデン政権の失策によるものであり、自身はエネルギー政策を転換し、エネルギー産出量を拡大させることで、エネルギー価格、そして物価上昇率全体を押し下げると主張している。この主張は根拠が薄いと考えられるが、インフレ問題はハリス氏にとって逆風となっていることは確かだろう。 ハリス氏が具体的な経済政策などを通じて、ラストベルトの白人労働者層のインフレ懸念を緩和することができれば、大統領選挙での勝利に一歩近づくことができるだろう。 (参考資料) "Harris Puts Abortion, a Weakness for Trump, at Center of Campaign(ハリス氏、「中絶の権利」を選挙戦の柱に)", Wall Street Journal, July 31, 2024 「トランプ氏「ハリス氏、突然黒人に」」、2024年8月2日、産経新聞 「米大統領選 「ハリスvsトランプ」確定 民主主義巡り激突」、2024年8月4日、日本経済新聞電子版 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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