「もしかして発達障害かも」と気づいた、わが子が【嫌がった遊び】とは? 診断後に治療へ進むものの、投薬への葛藤も【児童精神科医からのアドバイスつき】
薬を使うことにためらいも
すみれちゃんは、小1の時から薬物療法もしています。ジェイゾロフトという抗うつ薬を使っているのですが、医師からは、「ADHDと強迫性障害を持っているのに、よくやっていけるね。もう少し薬を増やしましょう」と提案されています。 「ずいぶん前からそう言われているのですが、断っています。怖いという気持ちを拭いきれません。これから初潮がくるし、成長過程なのにこんなにいっぱい薬を飲んでいいのかと気掛かりです。ジェイゾロフトは、私の中では最小の薬。先生には、『それはお母さんのエゴじゃない?辛いのはすみれちゃんです。よく出す薬だから大丈夫。薬を増やして様子をみませんか』と言われています。でも、寝起きも悪いし、これ以上眠り姫になられても困ります」
生きやすくするため、心のトレーニングをしたい
すみれちゃんは療育にも通っていましたが、6年生の夏にやめてしまいました。「私、普通級だし、なんでこういう子たちと一緒にいなきゃいけないの?」というのがすみれちゃんの言い分でした。今、ひろみさんは、個別の療育プログラムを受けさせてみたいと考えています。 「ただ、個別の療育は、遠方だったり席が埋まっていたりして、なかなか入れません。待つこともできるのですが、『本当に入れるかどうか確約できません。大丈夫ですか』と言われています。すみれのコミュニケーション能力を鍛えられるなら、療育に代わる習い事でもいいと思っています。生きやすくなるように、心のトレーニングを受けさせたいのです。」 普通の療育は肌に合わなかったすみれちゃんですが、5年生になってから大学生が9教科教えてくれる塾に通い、そこは姉貴や兄貴分ができた感じ。勉強にはなかなかついていけないけど、気に入っているそうです。
児童精神科医 岡田俊先生のアドバイス
ADHD(注意欠如・多動症)のある子は、同世代の子どもたちと比べて、思いつくとすぐに行動してしまったり、待つことが苦手であったり、感情のコントロールが苦手な子どもたちです。「子どもはみんなそうじゃないの?」と感じられたでしょう。そのとおりです。ただ、同年代の子どもと比べても、特にそういった傾向が顕著な場合にADHDの診断がつきます。学童期の子どもでは3-7%、特に男の子のほうが女の子より2倍多いとされています。およそ半数の子どもでは大人になるまでにこうした特徴が軽減しますが、特定のことに注意や集中が持続しにくいといった症状は継続しやすいとされています。 ご本人や親御さんによって、診断がつくというのは重大なことです。にもかかわらず、なぜ診断名があるのでしょう。それはADHDが養育者の方の育てにくさにつながったり、お子さん自身が生きづらさを感じることがあり、そのことで傷付きを抱えがちだからです。そうしたADHDに伴う負担を最小限にとどめるためには、それを軽減するための工夫があります。それを学ぶ一つの方法がペアレントトレーニングなのです。 ペアレントトレーニングでは、子どもの行動を好ましい行動(増やしたい行動)と好ましくない行動(減らしたい行動)、危険であったり許しがたい行動に分け、子どもの行動を変えていくためにはどうすれば良いかを学びます。 しかし、ADHDのお子さんの行動は気になることだらけ。思わず怒ってばかりで、養育者のほうがへこんでしまいます。なかには養育者の気を引くために余計なことをしたりするものですから、いやになってしまいます。 褒めることを見つけて褒める、気を引くためのちょっかいには反応しない、というのはペアレントトレーニングでは基本ですが、その基本が実は難しいのです。お子さんが自分のやっているよいことにも気づかないことがあります。お名前を呼んで振り向いてくれたとします。「あっ、お名前を呼んでくれたら振り向いてくれたね。ありがとう」というわけです。ひろみさんが「実況中継」というのはこれのことです。 こんなやりかたを聞くと、うちの子には幼すぎるやり方ではないかと感じるかも知れません。ペアレントレーニングは小学生年代で使用される治療で、実況中継はペアレントレーニングだけではなく、2-6歳を対象とした親子間相互交流療法(PCIT)でも使用されます。思ったよりは年齢の幅が広いとお感じになられたかも知れません。 ADHDの子どもは、褒められる機会が少なく、褒められることで思いのほか、行動が変化します。反面、親は褒めることになれていません。ついつい焦りがちですが、子どもの変化のためには親の鍛錬も必要になります。だからこそ、ペアレン「トレーニング」というわけです。すぐに効果が見えなくても、じっくりと取り組むことが大切です。治療者もそのプロセスを支えてくれます。 何が「普通」なのか、何が発達「障害」か、というのは難しい問題です。というのは、みんな違うのが当たり前で、養育者は誰でも子どもがとびきり特別な子であってほしいと思っています。しかし、診断がついた途端に、少しでも「普通」に近づけようと思ってしまいがちです。みんな違って当たり前です。歩み方も輝き方も違って当たり前で、そこに優劣などはありません。重要なことは診断の有無にかかわらず、その子らしい生き方ができることをどう大切にできるかということです。最初は一喜一憂してしまいますが、慌てない取り組みでこの子の育ちを支えていきましょう。 【前編】ではすみれちゃんの発達障害への気づき、それ以降に親子で模索したトレーニング等についてお伝えしました。 ▶【後編】では、小学校入学後に待ち構えていた学校での様々なトラブルについてお伝えします。引き続き、岡田俊先生にも学童期の発達障害についてもアドバイスをいただきます。