〈年金繰下げ受給〉を選んで大後悔!年金月24万円を受け取る72歳・元サラリーマン「ちゃんと調べておけば」…年金受給の“ベストタイミング”は【CFPが解説】
現在、老齢年金の受給開始年齢は「65歳」となっていますが、繰上げ受給・繰下げ受給の制度を使うことで60歳から75歳までのあいだで前倒ししたり先延ばししたりすることができます。この際、「繰下げ受給」をすると受給額が増額されるため、「たくさんもらえるに越したことはない」と安易に決断すると、逆に家計状況が苦しい事態に陥りかねないと、牧野FP事務所の牧野寿和CFPはいいます。事例をもとに、その理由について詳しくみていきましょう。 【早見表】年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
日本の年金制度のキホン
日本の年金制度は[図表1]のように3階建てになっています。1階部分と2階部分は国が運営する公的年金で、3階部分は公的年金に上乗せされる私的年金です。 1階部分の「国民年金」は、20歳以上60歳未満のすべての国民が加入します。自営業者などは「第1号被保険者」として、国民年金のみに加入して保険料は自分で納めます。 また、会社員や公務員は「第2号被保険者」として図中の2階部分にあたる厚生年金に加入します。厚生年金に加入すれば、国民年金にも加入していることになり、厚生年金保険料は給与から天引きされます。 会社員の奥様など、この第2号被保険者に扶養されている配偶者は「第3号被保険者」となり、保険料の自己負担はありません。 私的年金には、企業が従業員に退職金を支給するための「確定給付企業年金」、「企業型確定拠出年金」、「厚生年金基金※」といった種類があります。 ※ 厚生年金基金は、2014年4月以降新規の設立はできなくなった。 図中にある「年金払い退職給付」は、公務員の共済年金と厚生年金が一元化されたときに、公務員に支給されていた職域加算が廃止され、新たに設けられた公務員の年金制度です。 このほか、「国民年金基金」や「個人型確定拠出年金(iDeCo)」など、個人が国民年金に上乗せして任意で加入する年金もあります。
年金の受給開始“ベストタイミング”は?
公的年金は通常、65歳から受給します。しかし、家計状況やその後の収支見込みに応じて、60歳~75歳のあいだで受給を始めるタイミングを選ぶことができます。60~65歳にすると「繰上げ受給」となり受給額は通常より減額され、66歳~75歳にすると「繰下げ受給」となり受給額は通常より増額します。 「繰上げ受給」の場合、60~65歳の誕生月までのあいだで1ヵ月ごとに0.4%※ずつ減額され、最大24.0%減額された年金が受給できます。 ※ 昭和37年4月2日以降生まれの方の減額率。それ以前に生まれた方の1ヵ月の減額率は0.5%、最大60歳から30.0%減額となる。 この際、「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」をバラバラに繰上げることはできず、同時に繰上げ請求します。また、1度申請したら取り消すことはできません。生涯その金額の年金を受給することになります。 一方、「繰下げ受給」の場合、65歳の誕生月~75歳0ヵ月※までのあいだで1ヵ月ごとに0.7%ずつ増額され、最大84.0%増額した年金を受給することができます。 繰下げ受給では、「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」をバラバラに繰り下げることが可能です。もちろん、同時に繰り下げることもできます。 ※ 昭和27年4月1日以前生まれ、または平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生した人は、繰下げ可能年齢の上限が70歳(権利が発生してから5年後)までで、増額率は最大で42.0%となる。 たとえば、昭和40(1965)年生まれで、65歳からの年金受給見込額が120万円(月額10万円)の人の場合、「繰上げ受給」「繰下げ受給」を選択した際の受給額はそれぞれ[図表2]のようになります。 これをみると、65歳からであれば年間120万円の受給額が、受給を始める年齢によって、91万2,000円~220万円と変動があることがわかります。 受給開始の“ベストタイミング”は、人によって異なる また、受給の開始年齢や受給額が異なっていても、各々の損益分岐点は日本人平均寿命※男性81.05歳、女性87.09歳のなかに収まることは注視すべきです。 ※ 厚生労働省の「簡易生命表(令和4年)」より。 したがって、年金受給開始のタイミングを決めるうえで忘れてはならない「もっとも大切なこと」は、現状の資産や収支の正確な把握と、今後起こり得る事象を想定して、自分の人生設計とよくすり合わせを行うことです。 言い換えれば、銀行預貯金や投資と同様に、年金も資産形成のひとつの手段と考えることが重要なのです。 繰下げ受給を選んで受給額が増えるのは魅力的ですが、この場合、繰下げた年齢までの生活費を確保できなかったり、繰下げ受給後の税金や社会保険料の計算を怠ると、老後の生活に支障をきたしかねません。 ここからは、安易に繰下げ受給を選択したせいで後悔するはめになったAさんの事例を紹介します。もしAさんの言動に当てはまる人がいたら、要注意かもしれません。
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