<リベリア・内戦の子供達>ファヤ ── 高橋邦典フォト・ジャーナル
怯えた少年兵
ファヤと出会ったのも、モモと同じ戦闘中のあの橋の上だった。堂々としていたモモとは対照的に、橋の手すりに身を隠すようにそろりそろりと歩を進めていたファヤの顔は恐怖で強張っていた。すぐ脇を歩きながら写真を撮る僕のことなどに構う余裕もなく、出口を求めて前だけを見つめたようなその表情は、早くここから抜け出したい、そう訴えているようにも見えた。 再会したファヤは、同じ部隊の兵士だった仲間たちと、廃墟ビルのなかで寝泊まりしながら細々と暮らしていた。仕入れたロウソクや石けんなどの雑貨を又売りするという儲けの少ない商売と日雇い労働で生き延びていたが、稼ぎのあるときは1日2食、そうでなければ1日1食たべるのが精一杯という有様だった。僕は、戦闘中に撮った彼の写真をカバンからとりだし、ファヤの前に差し出した。 「この時の戦いを憶えているかい?」 「も、も、もちろんさ。あの時はひどかったなあ。た、た、弾が飛んできて、自分にも当たるかと思ったよ」 ファヤには強いどもりと早口という癖があった。不思議なことに、彼はあのとき僕がとなりで写真を撮っていたことを憶えていなかった。それだけ怯えていたか、緊張していたのだろう。写真のなかの、いかにも怖がっている自分の顔をみて、もうしまってくれとそれを突き返してきた。
『早殺し』の兵士
授業中学校に押し入ってきた政府側民兵たちによって誘拐されたファヤは、そのまま訓練キャンプに送られ兵士にさせられた。2000年、内戦の始まった翌年のことだ。 「き、き、機関銃の使い方や、て、て、敵が来た時にどこから撃ちかえすか、銃弾や砲弾を持ってどうやって走るか、そ、そ、そんなことを教えられたよ」 なぐられたりけられたりは日常茶飯事。少しでもなまければ、食べ物を与えられずにひもじい思いをさせられることもあった。 それでも、要領の良かったファヤは、訓練が終わるころには少年隊のグループリーダーに任命された。そのときファヤにつけられたニックネームが「クィック・トゥ・キル」。「早殺し」という意味だ。機転が利いて、襲撃の時も動きが早い、ということからこんな呼び名がついたらしい。 橋の上で撮ったファヤは明らかに怯えていて、とても「早殺し」とかグループリーダーのイメージにはそぐわないものだった。しかし、ぼくはそれ以上深く尋ねることはできなかった。ファヤは戦っていた時のことをあまり話したがらなかったのだ。なんで今更そんなことを聞くのかと、面倒くさげに、どもった早口でつぶやくだけ。彼にとって内戦はもう過去のできごとで、兵士だったことなど忘れたがっているようだった。