<リベリア・内戦の子供達>ファヤ ── 高橋邦典フォト・ジャーナル
「もう戦争は終わったんだからね。いまは普通の少年に戻った気分さ」 ファヤはなにか新しい人生を探しているようでもあった。 廃墟ビルに住んで一年半ほど経った頃、ファヤは再会した兄のスティーブンに引き取られ、スティーブンの働く服の仕立屋で見習い仕事をするようになった。さらに、僕がリベリアの子供達のために設立したリベリア募金によって再び学校へ通いはじめたのだが、そんな生活も長くは続かなかった。仕立屋での収入などほとんどなかったし、募金から学費や教材費は得られても、食べるために稼がなくてはならないファヤは、授業を受け続けることができなかったのだ。
奪われたチャンス
ファヤが銃を捨ててから10年。僕が6度目となるリベリアを訪れると、モンロビアでの生活に疲れたファヤはすでに故郷ロファ州の家族のもとへ戻っていた。 僕は、田舎のでこぼこ道を走るトラックに揺られ、10時間以上かけて彼を訪れた。 ファヤは、家族とともに、芋やもろこしの栽培をしながら暮らしていた。 「畑仕事はきついよ。だけど、他に何ができる?やるしかないだろ。ここで生きていくためにはね」 焼畑をする前の、木枝の切り落とし作業から一息つきながら、ファヤはため息まじりにつぶやいた。仕事が終わり、夕刻になると僕らは汗を流しに滝へと足を運んだ。 「最高だなあ。気持ちいいや!」 滝壺に飛び込んだファヤが叫ぶ。一緒に冷たい水に浸かりながら、ファヤにはここの生活があっているのかな、そんなことを考えていた。
しかし、村での滞在を終え、僕がモンロビアへ戻る支度を始めると、彼は一緒に連れて行ってくれと頼み込んできた。僕はその頼みを断った。いま都会に帰ったところで、以前のようなその日暮らしに戻ることは目に見えているからだ。 帰路、ヘッドランプに照らされる褐色の道路を眺めながら、僕はファヤの言葉を思い出していた。 「チャンスさ、成功するチャンスが欲しいんだ。そのための助けが必要なんだよ。だけどここはリベリアさ。俺みたいに助けを求めてる人間なんてごまんといるんだ」 両親に甘えるチャンス、学校に行くチャンス、友だちと遊んだり、スポーツをするチャンス、親友をつくるチャンス、クラスメイトに恋をするチャンス…。 内戦は、多くのチャンスをファヤから奪っていった。そんなチャンスは、もう彼に巡ってくることはないのだろうか?