じつは「汗の量」は民族によって変わる…「日本人」と「暑い地域の民族」の汗のかき方の違い
交感神経の活動が高まると汗が出る
汗が出るのは、汗腺につながっている交感神経の活動が高まるためです。汗腺は自律神経の二重支配を受けておらず、交感神経のみがつながっている例外的な器官。その意味では、第1章でお話しした皮膚の血管と似ていますね。 全身のエクリン汗腺には、近くの脊髄から交感神経が出ています。顔や首、腕など上半身の汗腺には胸髄の上のほうから、体幹部の汗腺には胸髄の中央と下のほうから、足の汗腺には胸髄の下のほうと腰髄から交感神経がいっています。 ノルアドレナリンを出す通常の交感神経節後線維と異なり、エクリン汗腺につながる交感神経節後線維からは、アセチルコリンが出ています。アセチルコリンが汗腺のムスカリン受容体に働きかけると、汗が分泌される仕組みです。 ドライアイの患者さんがピロカルピンを服用後に多汗に悩まされるのは、ピロカルピンがアセチルコリンと同じようにムスカリン受容体に作用するため。その作用は涙腺や唾液腺のムスカリン受容体に留まらず、汗腺のムスカリン受容体にも効いてしまうのです。ムスカリン受容体を遮断するアトロピンには、汗を止める働きがあります。
暑い地域の人は、汗腺の数が多い
汗腺の数は、人によって異なるのでしょうか? それを調べたのは久野寧という生理学者です。久野は1920年代、当時赴任していた満洲医科大学(現・中国医科大学)で漢方の発汗剤として知られる麻黄という植物を知り、汗を測るさまざまな方法を考案して、人間における汗の研究を開拓しました。人がやっていないような研究がしたい、そういう思いがあったといいます。 久野によれば、暑い地域に住んでいる民族は、寒い地域の民族に比べて汗腺の数が多いそうです。ただし、日本人が熱帯地域に移住したからといって、汗腺の数が急に増えるわけではありません。汗腺の数は生まれたときにほぼ決まっており、2歳半くらいまでの間には増えることはあっても、それ以降はほぼ一定ということです。汗腺を増やすには、暑い地域で生まれるか、もしくは2歳半までにそういうところに移住する必要がありそうですね。 では、汗の量も民族によって変わるのでしょうか? 日本人はわずかな暑さでも汗をかきますが、日本よりも暑い地域で暮らしている民族は、ちょっとした暑さでは汗をかきません。暑いところで生活していると、体が暑さに慣れ、体内の水分が減りすぎないように汗を抑える能力が備わるようです。 環境温の上昇によって起こる発汗は温熱性発汗とよばれます。温熱性発汗には脳の視床下部が関わっており、体温調節に重要です。