日本映画界の労働環境は改善できるはず――カンヌ受賞、役所広司が語る現場の変化と課題 #ニュースその後
是枝裕和監督らが立ち上げた「action4cinema/日本版CNC設立を求める会」に賛同している。CNCとはフランスの支援機関「国立映画映像センター」のことで、興行収入などの一部を徴収し、助成金として業界全体に資金を還元する共助の仕組みを持つ。 「(現状は)改善できるはずです。映画界が次世代の人材を育てようと思えばね。そのほうが日本映画の息は長くなる。国の援助も重要ですし、まずは援助を受けるうえで、映画界がまとまらないと駄目なんだと思いますね。でも、日本はあの黒澤明監督も助けなかった国ですから(笑)、何か根深いものもあるんだと思います」
才能を呼び込めなかったのは、映画界の大きな損失
才能や文化を育てる環境にするためには、どうすればよいのか。 「監督が自由に撮れる映画は、なかなかないんです。ビジネスだからしょうがないけど、予算を出さないし、映画館も開放しない。以前は製作予算1億、2億くらいの小作品で評価されているものが多かったですが、今はそのくらいのものが少ないですね。3億以上か、何千万クラスのインディーズで。新しい映画作家が育つには、環境がよくない気がします。才能のある監督に撮る場を与えて、海外でもセールスを成り立たせるというビジネスもあるんじゃないかと僕は思うんですけどね」 「ヴェンダース監督も含めて、かつて日本映画の影響を受けた人たちが世界中にたくさんいるんです。『最近の日本映画はどうなの?』と言われることはよくあります。日本のアニメやゲームは世界を席巻している。アニメ作家でもゲーム作家でも、最初は映画監督になりたかったという人が多くいます。その才能を呼び込めなかったのは、映画界の大きな損失ですよね。やっぱり働く環境を整えないと」
「映画のよさって何なのか、僕もよく分からない」と口にしつつ、こう話す。 「物語自体は出尽くしていて、あとは表現の仕方です。そこに、ヒットしなきゃいけないといった条件がついてしまうと、かなりハードルが高いような気がするんです。僕も一観客として、こんな切り口や表現があるのかという新しいものを見たい。分かりやすいもの、全部与えてくれるものを見慣れていると、お客さんも自分で感じたり考えたりすることがなくなって、偏ってしまう。それは作り手の責任があると思います。映画が芸術の一端を担っているのなら、違う面白さを作り続けていかないと。そういう映画界になるといいな」 現場の変化を実感しながら、日本映画界を牽引してきた。「僕たち俳優やスタッフは、映画館にかかる映画を作るということに、やっぱり夢がある」と言う。現在、67歳。自身の俳優業について、若い頃から一貫して語っていることがある。 「自分が死んで、50年、100年経っても、『へえ、こんな役者がいたんだ、こんな映画があったんだ』って、そういう日本映画史に残る作品になんとか一本でも潜り込めたら、幸せな俳優人生だと思います」
役所広司(やくしょ・こうじ) 1956年、長崎県生まれ。近年では『孤狼の⾎』(2018年)で3度⽬の⽇本アカデミー賞最優秀主演男優賞、『すばらしき世界』(2021年)でシカゴ国際映画祭最優秀演技賞などを受賞。カンヌ国際映画祭コンペティション部門最優秀男優賞を受賞した映画『PERFECT DAYS』は12月22日全国公開。 取材・文:塚原沙耶 スタイリング:伊賀大介(band inc.) ヘアメイク:勇見勝彦(THYMON Inc.)