日本映画界の労働環境は改善できるはず――カンヌ受賞、役所広司が語る現場の変化と課題 #ニュースその後
役所が俳優を志したのは、1978年にさかのぼる。長崎県諫早市から上京し、千代田区役所土木工事課に勤めていた頃、仲代達矢の主宰する俳優養成所「無名塾」に入塾。公務員をやめ、アパート代を支払うために肉体労働のアルバイトをしながら稽古に励んだ。80年代以降、テレビドラマや映画で活躍するようになる。『Shall we ダンス?』(1996年)などの主演作が話題を呼び、国内の映画賞で主演男優賞を独占したのは40歳の時だ。現在に至るまで、ありとあらゆる役を演じてきた。 「いい内容でいい役があれば、それはもう、手弁当でも参加したい。『こんな映画があったら自分も見たいな』というのが、(出演作品を選ぶ)基準ですね」 『SAYURI』(2005年)、『BABEL』(2006年)など、海外の映画にも出演してきた。しかし、ハリウッドに本格進出しようとは「一度も思ったことがない」と言う。 「週刊誌か何かで、役所広司は『PERFECT DAYS』を機にハリウッド進出に意欲的だって書いてあったけど、言っていないですよ。『SAYURI』の時はね、ハリウッドの現場を一回見てみたいと思って行ってみました。すごいスケールだなと思いましたけど、お芝居をすること自体は変わらない。ハリウッドは分業ですが、日本のスタッフは自分のパート以外もいろんな仕事をやっていて、働き者で優秀だなと思いました」 「海外から来る仕事より、魅力的な仕事は日本のほうが多いです。(ハリウッドは)出演料は高いかもしれないけど、そんなにやりがいのある役ではなくて。“謎の東洋人”じゃないけどね(笑)。今は多様性を重視するなかで、いろいろな人種を出すというのもありますけど、そう魅力的な仕事はないです。言葉の問題もあります。母国語が英語という役は、僕には不可能です。ハリウッド進出よりは日本映画を作って、世界中の人に見てもらいたいと思いますね」
表現の制約は、俳優としてはやりにくい
2023年には、主演を務めたネットフリックスのオリジナルドラマ『THE DAYS』が配信された。配信サービスの普及に伴う業界の変化は意識しているのだろうか。 「しています。地上波のドラマは本数も減った気がするし、配信に比べると、個性的なものが少なくなりましたよね。家庭に飛び込むものなので、企画にも表現にも制約がある。配信のほうが自由度は高いです。地上波向きのドラマというのはあると思いますけどね」 「表現も昭和の時代に比べたら厳しくなりました。それは俳優としてはやりにくいですよ。さっきまであんなに慌てていたのに、なんでシートベルトしてるんだ、とかね(笑)。『VIVANT』(2023年、TBSドラマ)は、そこを吹っ飛ばしていましたね。チャレンジしたんじゃないでしょうか。ディレクターの福澤(克雄)さんが還暦を前に、一つの区切りとしてみんなでやろうと言って、持ってきた企画でしたから。僕のシーンで言うと、もともと首を切るシーンがありましたが、前半でかなり激しく表現したので、首を落とすのは止めようと、さすがの福澤監督も気をつけていましたけど(笑)」