「ヤノベケンジ:太郎と猫と太陽と」(岡本太郎記念館)開幕レポート。猫と《太陽の塔》の出会い
東京・青山の岡本太郎記念館で美術家・ヤノベケンジによる企画展「ヤノベケンジ:太郎と猫と太陽と」が開幕を迎えた。会期は11月10日まで。 ヤノベは1965年大阪府生まれ。京都芸術大学教授/ウルトラファクトリー・ディレクター。90年代初頭より「現代社会におけるサヴァイヴァル」をテーマに機能性を持つ大型機械彫刻を制作。2017年、「船乗り猫」をモチーフにした、旅の守り神《SHIP'S CAT》シリーズを制作開始。22年に開館した大阪中之島美術館には、シンボルとして《SHIP'S CAT(Muse)》(2021)が恒久設置されている。 ヤノベは2011年から翌年にかけて「ヤノベケンジ:太陽の子・太郎の子」を岡本太郎記念館で開催しており、本展は12年ぶりに同館で開催される個展だ。 展示の中心となるのは、《BIG CAT BANG》。これは、宇宙船「LUCA号」(LUCAとはLast Universal Common Ancestor=最終普遍共通祖先の意味)に乗って地球に到達した「SHIP'S CAT/宇宙猫」が、無機質だった地球に生命を着床し、役割を終えたあと、《太陽の塔》となりその痕跡を残している、というヤノベが構想した壮大なフィクションだ。 ヤノベは70年の大阪万国博覧会の開催地である大阪で育っており、幼少期に「廃墟化した万博」を体験。そこにそびえ立ち続ける《太陽の塔》がヤノベのクリエイションの原点になったという背景がある。それゆえに、《BIG CAT BANG》は岡本太郎の代表作である《太陽の塔》を引用した作品となっているのだ。ヤノベは「地球上の問題に向き合うために、岡本太郎の力を借りた」と語っている。 ヤノベは現在、全長9メートルの作品《BIG CAT BANG》を東京・銀座の「GINZA SIX」で展示中であり、本展はその対となるもの。《BIG CAT BANG》の背景にある物語やディティールが、図式化された直筆壁画や映像、AIを利用して描いたドローイングなどによって示されている。また、庭園や1階のアトリエ部分にも作品が点在しているため、じっくりと探し出してみてほしい。
文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)