良くも悪くも自分次第、意志と決断力が高みに連れていく。レースエンジニアの実態をローソン、岩佐と組んだMUGEN小池氏に聞く|モタスポ就職白書
近年、業界全体を盛り上げようという動きが活発となっている日本のモータースポーツ界。より多くのファンを獲得し、より多くのスポンサーから関心を集めることで、よりサステナブル(持続可能)な業界としていく必要があると言える。これは“ニワトリが先か、卵が先か”という領域になるのだが、若く優秀な人材が多く入ることもまた、業界発展には重要なことだろう。 【動画】”マッチ”こと近藤真彦JRP会長、スーパーフォーミュラSF23を初ドライブ! デモランに向け練習練習 ただ、モータースポーツ業界は様々な分野で人材不足と言われる。その理由は数多く存在するだろうが、そのひとつに「業界で働く姿をイメージしにくい」という点があるのではないだろうか。 例えばレースチームやレース事業を中心に据える企業に就職できれば、自動車メーカーに就職するよりも自分のやりたいレース関連の仕事ができる可能性が高い。しかし裏腹にそういった企業は不定期採用が多く、一般企業のようにインターンや説明会を通して業界研究できる機会も限られている。兎にも角にも情報が少ないという感は否めない。 本企画では、レース業界の様々な業種で働く人たちにフォーカスを当てたインタビューを実施。業務内容にとどまらず、業界への入り方や働き方など様々な側面を紹介し、サーキットで働く人たちの“解像度”が上がることへの一助になれば幸いだ。 第1回は、TEAM MUGEN(株式会社M-TEC)でレースエンジニアを務める小池智彦氏を紹介。スーパーフォーミュラでは15号車のトラックエンジニアを務めており、2022年には笹原右京と2勝を記録し、2023年はリアム・ローソンと組んでタイトル争いを展開した。今季はヨーロッパ帰りの岩佐歩夢を担当している。また小池エンジニアは様々な媒体を活用して、モータースポーツの魅力やエンジニアの仕事などについて積極的に発信していることでも知られる。
F1に憧れ、単身イギリスへ
実は小池エンジニアの父は、ホンダのエンジンエンジニアとしてF1第2期、第3期で活躍した小池明彦氏。父に連れられてF1の現場に触れる……ということはなかったが、物心ついた頃からF1のレースエンジニアになりたいという夢ができていたという。小学校時代の文集にも、その夢はしっかりと綴られていた。 まだ30代前半と若い小池エンジニアだが、10代の頃は今ほどインターネットやSNSが発達していなかった時代。その中でもエンジニアになるための情報収集を行なった結果、大学で機械工学を学んだ後にイギリスに渡ることを決断した。 そして東海大学卒業後の2014年、単身イギリスへ。父親の伝手もあり、鈴木亜久里氏率いるフォーミュラEチーム、『アムリン・アグリ』の立ち上げにインターン生として関わり、記念すべきシーズン1の開幕までの数ヵ月間チームを手伝ったという。 その中でF1の経験もあるエンジニアから、オックスフォード・ブルックス大学という、モータースポーツエンジニアリングに特化したコースがある大学の存在を教わる。そして翌年秋から同大学の大学院で1年間学んだ。結局イギリスでの就職は叶わなかったが、先述のエンジニアから、日本のレース界で働いているオックスフォード・ブルックス大学の卒業生を紹介される。それが、現在はトヨタWEC(世界耐久選手権)でも活躍するライアン・ディングルだった。 「ライアンはF4、F3と叩き上げでトップカテゴリーまで登り詰めた人でしたが、彼に『F4やF3から始めた方がいいのか』と相談したところ、『チャンスがあるならトップカテゴリーに入った方がいい』と言われました」 国内レースには疎かった小池エンジニアは、元F1ドライバーの中嶋悟氏が興した中嶋企画に応募し、入社。NAKAJIMA RACINGにメカニック・エンジニアとして3シーズン所属した後、M-TECに移籍し現在に至る。