「一律給付」はなぜ必要か──「まちかど金融危機」を防げ
雇用対策と今後の課題
──今回の経済対策で政府が力を入れている雇用対策の部分はいかがでしょうか。 今回の政府の対応で素晴らしかったのは、雇用調整助成金の枠を雇用保険非対象者にも広げたことです。つまり、パート従業員やアルバイトを休ませた場合の休業手当にも助成金が出ます。 雇用調整助成金は、各都道府県の労働局に申請します。通常は支給まで2カ月以上かかるのですが、最近ではかなり短くなってきているようです。とてもいいことだと思っているんですが、一つ懸念もあって。 7都府県を対象に「緊急事態宣言」が出て、各知事から事業者に休業要請できるようになりました。そうすると、一部の業界においては、休業手当を払う義務がなくなっちゃうんですよね。 ──どういうことですか。 休業手当は、使用者の責めに帰する休業に対して支払うことが義務づけられているものです。ところが、自治体に指示された場合には、使用者の責めではなくなってしまうかもしれない。そうすると、なんらかの手当を支払ったとしても、法律上「休業手当」とは見なされなくて、雇用調整助成金のカバレッジ(適用範囲)ではないですよということが起こりうる。 政府も雇用調整助成金はこれまで通り活用してほしいと考えているでしょうから、急ぎ厚生労働省などから注意喚起をする必要がありますね。すでに、ごく一部とはいえ企業側に負担がある雇用調整助成金を使おうとせずに、問題視される企業が出てきています。すんなりと払ってくれる良心的な事業主ばかりではない。 ──雇用調整助成金は、会社を通して被雇用者にお金がいく仕組みです。そうすると、経営者の心一つみたいな部分が出てくるわけですよね。となると、労働者に直接お金を配ったほうがいいという話にはならないんですか。 それもありうる話だと思っています。アメリカが直接給付の意思決定が早かったのは、ほとんどの会社が即クビにするだろうと思ったからですよね。日本の場合、日本型雇用の温情主義的なところに寄りかかっている部分があると思います。 ──クビになってしまった場合は、失業手当でカバーすることになりますか。 そうなりますね、どうしても。だから、雇用保険に入っていない非正規労働者、つまりバイトを掛け持ちしているような人で、かつバイト先のオーナーが鬼で休業手当支給をしようとしないとかですと、ハードモードになると思います。 ──これから先、第2第3の対策を行う必要がありますか。 今回、事業規模108兆円、財政支出39兆円と言われていますが、108兆円の事業規模のうち、総合経済対策や緊急対応策第1弾・第2弾の22兆円は、コロナ関係なく決まっていたものなんです。それをなぜか108兆円の中に入れている。ちなみに、総合経済対策というのはひらたく言うと消費税増税対策費です。 なので、実際の事業規模は86兆円となります。そのうち、財政支出――つまりは一般的に「真水」と呼ばれる部分は29兆円。ただし、29兆円のうち数兆円分は、すでに成立している令和2年度予算からの支出先の振替分が含まれているので、実質は26兆円ほどがいわゆる「真水」と思えばいいでしょう。 私は少し前(3月下旬)まで、真水の規模は30兆円必要であるといろんなところに書いていたので――その時点ならば26兆円は少々少ないけど一定の意味はあると評価していたと思います。しかし、緊急事態宣言やそれを受けての各自治体の動きを見ていると、もう一段階大規模な財政負担を躊躇してはいけないと考えています。 ──財政支出が少し足りないということですか。 足りないと思います。私としては、感染拡大フェーズに使う部分を増やして――実際多いんですけれども――、収束後の景気回復フェーズについては年の中庸から後半にかけて再度議論していく必要がある。 「まちかど金融危機」をどうやって防いでいくかも、第2の対策が必要になってくると思います。結局、一律給付・事後精算の方法を選択しませんでしたから。ここからかなり大きな困難が予想されると思います。これからは、緊急経済対策第一弾の「制度的な穴」と「規模の不足」をいかにして補っていくのかを考えていく必要があるでしょう。状況は時々刻々と変化しています。だからこそ、経済対策も第2・第3の矢を用意して、立ち向かっていかなければなりません。