「一律給付」はなぜ必要か──「まちかど金融危機」を防げ
──おっしゃるように、一律給付にして課税収入にするというのがもっとも効果的でシンプルな方法だと思います。 私もまさにそうだと思います。「十分に厳選した基準に基づく支払い」と「仮払い事後精算」は、数年の単位で見れば必要な財政規模に差はありません。仮に「本当に必要な人だけに」最適な基準設定ができたところで(もちろんそれ自体が無理ですが)、それによって達成できる経済状況は「仮払い事後精算」と大して変わらないのです。たしかに、1世帯30万円ずつ、全世帯に給付すると、15兆円必要ということになる。私自身はこのくらい、後に回収するなどということは気にせず、支出すべき状況だと思いますが、どうしても最終的な財政支出額を抑えたいならば次年度に税として徴収すればよいのです。 ──なぜ通らないかは、謎なわけですね。 謎ですね。でも、私がそこまで一律給付にこだわるのにも理由があるんです。今回の「コロナショック」の対策としてつくられているさまざまな仕組みで、何を防がなければならないのか。 防がなければならないのは、金融危機です。といっても、リーマンブラザーズ証券が破綻するとか、山一証券や拓銀が破綻するというタイプの危機とはちょっと異なっています。 「まちかど金融危機」が起こる。 たとえば飲食店を例にとると、新型コロナウイルスの感染拡大の期間中は、お客さんが激減し、あるいは営業を自粛して売り上げがなくなるわけですよね。そうすると、飲食店に納品している酒屋は「おいおいあそこのスナック、売り掛けほんとに払ってくれるんだろうな」と思うわけです。酒屋は、仕入れ先の蔵元に代金を払わなければならないからです。 ──売り掛け回収失敗のドミノ倒しみたいなことが起こる。 それはバカにできなくて、1件1件は数十万円、せいぜい数百万円の単位かもしれませんが、数が大きい。日本中でちっちゃな「我が社の金融危機」みたいなことが起きる。 ほんの小さな金融危機が、日本中で一気にとんでもない数起きる可能性がある。それを防がなければならない。 金融危機を防ぐために通常何が行われるかといえば、公的資金の導入ですよね。つまり不良債権処理を進めるために一時的にお金を入れて、連鎖的な金融機関の倒産を防ぐ。導入した公的資金は、長い期間をかけて徐々に返してもらう。これを個人や、中小企業または個人事業主に対して適用するというのが、大きなポイントになるのではないかと思います。 ──なるほど。残念ながら今回の経済対策にはそのような発想が見られないということですね。 そうです。それから、つけ加えておかなければいけないことがもう一つ。中小事業者・個人事業主の事業継続のための給付も、一律にすることに加えて、売上ではなく粗利を見てあげないといけない。 「仮払い事後精算」にすれば、来年以降の確定申告や決算で1年間通しての粗利の増減を見ることができるので、その部分の一部を給付に切り替えてあげることで損失への補填金とすることができるわけです。 さらに言えば、前年比で減った売上分は損金として扱う方法もある。 そういったかたちで、何階建てかにして事後で精算してあげたほうがよかったのに、全員一律給付は嫌、だけど急がなきゃならないとなると、売上というかなりcrudeな(粗い)指標になる。だけど売上は、今回の「コロナショック」で「どれくらい困ったか」と相関が高い指標だとはいえないかもしれません。