スペースデータ、誰もが「宇宙ステーション」を開発できるOSをGitHubで無料公開
スペースデータ(東京都港区)は11月11日、宇宙ステーションを共同で開発、利用するためのプラットフォーム「Space Station OS」を公開した。宇宙ステーションを制御するソフトウェアとして世界初のオープンソースとしている。 Space Station OSは、宇宙ステーションの開発や利用に必要なソフトウェアとシミュレーション環境をオープンソースとして公開し、世界中の技術者が協力して宇宙ステーションの開発や利用を促進するための基盤になる。第1弾として、宇宙ステーションの開発に必要なソフトウェアとシミュレーション環境を世界最大のソフトウェア開発プラットフォームという「GitHub」で公開した。 同社はSpace Station OSについて「宇宙のOS」と説明。WindowsのようなOSは、異なるハードウェアの差異を吸収し、共通の操作環境を提供することで、コンピューターの普及を促進し、インターネットという新たなインフラを生み出しましたと解説する。 同様にSpace Station OSは、異なる企業や国が開発した宇宙ステーション間で共通に動作するソフトウェアを提供し、宇宙ステーションの開発や管理、運用を容易にするとしている。誰もが宇宙ステーション事業に参加できる時代を開くと表現している。 宇宙空間は、地球では当たり前な空気や水、対流などの自然資源がなく、昼は120度、夜はマイナス150度に達する極端な温度環境。強い宇宙放射線、無重力などの人間にとって過酷な環境でもあると指摘する。 宇宙ステーションは、地球と同等の環境を工学的に再現することで、宇宙でも人が安全で快適に生活できるように設計されている。宇宙ステーションの技術は、地球の自然な営みを工学的に再現した「小さな地球」と言い換えることもできると同社は説明している。 Space Station OSは宇宙ステーションを構成する、熱制御、姿勢制御、電力、熱、通信、生命維持などを制御するソフトウェアを搭載。各機能を統合し、システム全体の最適化を図る機能も備えているという。 「Robot Operating System(ROS)2」を基盤に構築されている。ROS 2は、ロボットを開発するためのオープンソースミドルウェアであり、ソフトウェアライブラリや通信プロトコル、開発ツールなど、ロボットアプリケーションに必要な多様なツールを提供している。ROS 2は、2023年には5億5000回を超えるダウンロード数を記録するなど世界最大のロボット開発者向けのオープンプラットフォームとしている。 ROS以前、ロボット産業ではフルスクラッチでシステムを開発するのが一般的。しかし、ROSが登場したことで、ロボット開発に必要な技術や知見が広く共有され、ソフトウェアの再利用が促進されるようになったと説明。開発コストが削減され、信頼性が向上し、ロボット技術者の人口も増加したという。現在、ROSは自動化、製造、医療、農業など、多様な産業分野に広く普及している。 ROSは、2007年にロボットソフトウェアの開発を世界規模で共同開発するために、ロボット工学分野の研究開発でのコードの再利用を促す目的で開発された。当初、研究開発用途を想定して開発されたROSの利用が想定を超える領域での利用に広がり、2015年にROSのコンセプトを引き継ぎROS 2の開発が始まった。ROS 2では、実製品にも適用できるようにサポートOSの拡大、信頼性の向上が施されている。 宇宙ステーションの開発は、ROSが普及する以前のロボット産業と類似した状況にあると同社は説明。現在は限られた専門家が独自に開発を進めているが、Space Station OSで技術や知識の民主化が進み、世界規模での宇宙ステーションの共同開発が実現すると同社は解説する。 各機能をモジュール化して、パッケージ機能で統合することで、柔軟性と再利用性、拡張性を実現するROS 2を基盤にしてSpace Station OSを構築する。 現在、ハードウェアの開発ではソフトウェア制御を前提とし、共通のハードウェア上でソフトウェアを頻繁にアップデートし、機能や顧客体験を向上させる「ソフトウェアディファインド」とよばれるアプローチが注目を集めている。Space Station OSでは、こうしたアプローチを宇宙ステーションの開発に導入し、柔軟かつ拡張性の高い製品や開発を実現するという。 宇宙空間ではハードウェア交換が難しいため、ソフトウェアを通じて機能の追加や変更が可能になることで、宇宙ステーションの運用がより柔軟になると説明。Space Staion OSでは、システムとして成立するために電力や通信、熱制御など最小の機能を提供するとともに、ソフトウェアやハードウェアの拡張性を許容するアーキテクチャを指向している。 標準化されたインターフェースを通じて、各国の政府や企業が開発した機器が互換性を持ち、シームレスに連携できる環境を構築できると説明。宇宙ステーションの開発と運用が柔軟かつ持続可能なものとなり、将来の技術革新にも対応可能な基盤を提供するとしている。 Space Station OS開発責任者 加藤裕基氏 コメント 「数十年もの間、宇宙ミッションは有人か無人(ロボット)か、という論争がなされてきましたが、私の中での答えはただ1つです。『ロボットが、有人ミッションに自由を与える』のです。そして、このSpace Station OSは歴史を一つ刻み、世界に誇れるステップです。 宇宙ステーションは大きなロボットであり、スマートホームのようなものです。宇宙ステーションへ人がその維持作業のために行くのではなく、ロボットが管理しきれいにしてある宇宙空間にリモートワーク出張している世界は必ず実現できます。 Space Station OSが普及し、『宇宙の民主化』が進めば、有人火星探査や、スペースコロニーの話もどんどん出てくる、つまり人類の進歩への貢献を感じられるのです」 国際宇宙ステーション(ISS) 日本実験棟「きぼう」 開発責任者 長谷川義幸氏 コメント 「きぼうは先端の有人宇宙技術を獲得する国家事業として国内の宇宙関連企業8社で分担開発を行いました。このため、各社間のデータ通信の接続を定義するインターフェース仕様を定義する作業が非常に大変で、試験をするとデータが受信できなかったり、指令データが届かなかったりしたことが起き、全体システムとして仕上げるのに多大な労力やコストを費やしました。NASAとのインターフェース試験でも似たようなことが起きました。当時は、まだソフトウエアの標準化ができていない時期だったのです。 もし各社が手軽に利用でき安価で信頼のおける共通ソフトウエアが存在していれば、本来の目的である先端技術開発や宇宙実験準備に技術者の時間を集中できただろうと思います。宇宙ステーションの基本的な機能を組み込んだSpace Station OSは、そのような余計な業務を効率化でき開発を加速できる可能性があります。これをきっかけとして、国内外の多くの技術者や事業者が、宇宙ステーション開発や利用の事業に参加することを期待しています」 三菱重工 きぼう管制システム開発責任者 竹内芳樹氏 コメント 「きぼうを設計した1990年代は、PC、Windows、ネットワークなどが漸く普及した時代であり、管制システムと搭載ソフトウェアの要求定義やインターフェース設定に非常に苦労しました。この度公開されるSpace Station OSは、そのような業務を大幅に効率化するものであり、国内外での民間ステーションの開発で大いに活用されることを期待します」 東京大学 先端科学技術研究センター 知能工学分野 教授 矢入健久氏 コメント 「私たちは長年に渡って、宇宙機の信頼性と安全性を高めるための人工知能・機械学習研究に取り組んでいますが、宇宙機開発における知見やデータの共有の困難さが大きな障壁でした。Space Station OSが提供するオープンな研究開発環境はこの障壁を取り除き、真に宇宙で使える人工知能の実現に貢献すると大いに期待しています」 宇宙飛行士 山崎直子氏 コメント 「ミニチュアの地球とも言える宇宙ステーションを、世界中の叡智をつなげて開発利用していくSpace Station OSは、画期的な仕組みであり、人類にとって大きな一歩です。民間の宇宙ステーションが複数計画されている過渡期だからこそ、本OSが公開される意義は大きいでしょう。 ISSでは、100以上の国の研究者により、約3000もの実験が実施されてきています。準備には長い時間がかかる場合が多いですが、本OSが広まれば、宇宙実験をしたい、宇宙ならではのエンタメを考えたいなど多様なアイデアの実現も加速できるでしょう。そして、宇宙ステーションの熱制御、電力、生命維持など様々な機能をシミュレーションできる様になれば、より複雑な『宇宙船地球号』の理解への糸口となるはずです。宇宙でも地球でも貢献されることを期待しています」 ISSは2030年で退役することが決まっており、米航空宇宙局(NASA)は「商用地球低軌道開発(Commercial Low Earth Orbit:CLD)」プログラムを通じて、民間企業による宇宙ステーションの設計や開発を支援している。2030年代には複数の民間宇宙ステーションが地球軌道上で運用されることが期待されている。 同プログラムには、Axiom SpaceやBlue Origin、Starlab Spaceが参加している。Starlab Spaceは、Voyager SpaceとLockheed Martin、Airbus、Northrop Grumman、三菱商事などによる合弁会社。 スペースデータは、世界中の宇宙ステーション開発の加速を目指し、異なる企業や国家が開発する宇宙ステーション間での相互運用性を確保するため、共通動作するソフトウェアの開発をオープンソースとして推進していくとしている。
UchuBizスタッフ