東京都心にカワセミが生息している。地形と都市開発を「観察」する
たぶんそこで(名詞じゃなくて)動詞の観察を通して出てきたアイデア、ヒントというのが、ビジネスのきっかけになる。言い換えると、人の動詞を捕まえるのがビジネスなんです。『ゲームは「動詞」でできている』はまさにそれを語っている本で、テレビゲームでいちばん重要なのは全部動詞、キャラを動かすか、プレーヤーにどう動いてもらうか、その確定だけなんですよ。 柳瀬先生、相当影響受けてますね。 ●人が面白がる「動詞」を見つけるのが「観察」 柳瀬:目からうろこでした。ゲームの魅力は美麗なビジュアル、とか思うじゃないですか。でも極端にいうと、アイコンは何でもいいんですよ。 いや、そうだよ。昔、パソコンで動かしているゲームって、アルファベットの文字そのものがキャラクターで、ダンジョン探検、とか、普通にあったよね。「スタートレック」とか面白かったなあ。 柳瀬:ドットや文字で十分楽しい。板が上下に動くだけのテニスゲームも面白かったわけですよ。 人は何を面白がるのか、動詞である。動きである。その動きがなぜ起きるのかを見抜くのに必要なのが観察である、そんな感じかな。一方で、ビジネス書がその典型だけど、言葉で説明しようとした瞬間に、我々のアタマは動詞を捨てて名詞のほうに動き出すんだよね。 柳瀬:それが顕著になるのがBtoB(企業向け)でしょう。 あ、言われてみれば。「同じものをつくればいい」となるとね。 柳瀬:BtoCでも同じことが起こります。相模屋食料の本(『妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話』)で、社長さんが言っていた「数字を押し付けると、社員はおとうふじゃなくて、白い塊をつくり出す」というのは、まさにそれですよ。おいしいおとうふ、じゃなくて、水分何十パーセントの白い物体、という、動詞じゃなくて名詞の仕事を始めちゃう。 うへー、そうか! 柳瀬:まったく一緒、まったく一緒。あの相模屋の本の面白さは、社長の鳥越(淳司)さんが動詞の人だからですよ、徹底的に。 確かに。動詞で考えていないと、魅力のない白い塊をつくり出すわけだ。 柳瀬:そういうのって「仕事」の中にいっぱいあるでしょう。 あるある、死ぬほどある。 柳瀬:観察は「自分が」面白いと思ったものの動詞を見極めること、どう暮らしているのか、何をしているんだろうって。動詞を見ていくと、必然的に「なぜ彼はここにいるんだろう」という話になっていく。何を食べているんだろう、ここにいることとあっちにいることと何が違うんだろう、別のところにいるカワセミだったら、何が共通点なんだろうって見ていく。 ●観察中にググるのはあり? なし? そのさ、動詞を見つけようと観察しているうちに疑問が浮かぶじゃん。浮かぶとすぐググる(検索する)じゃん。 柳瀬:そうですね。 これはダメ? 柳瀬:ダメ。結果としてググってもいいんだけど、観察を削ることをやっちゃ絶対にだめ。 なるほどね。検索は観察を削るきっかけになっちゃうか。 柳瀬:僕は今、観察とアナログの時代だと思っているんですよ。生成AIのレベルが一気に上がっちゃったけれど、生成AIに絶対できないのは、“最初の”観察なんですよ。世界で僕が初めて、という観察は、僕しかできないんですよ。 「空想地図」を書いている、今和泉隆さんを思い出すね(電子版では「地理人 今和泉隆行の 仕事はすべて地図から始まる」)。自分で日本全国の街を歩いて、仮説を立てて、記録を取って検証していく、という。「街の中心の移動」という視点で池袋と熊本、静岡と新潟、佐世保と佐賀を比較するなんて、ほかに誰が思いつくだろう。 柳瀬:はいはい、そうそう、今和泉さんがやっているのは、まさに観察の固まりですね。そして……。 (ノックの音) 日経BP社員:すみません、そろそろ……。 あっ! 会議室の予約時間が過ぎちゃった。 柳瀬:じゃ、ご近所の麻布台ヒルズの観察にでも行きますか。あそこは「ヒルズ」といいますが、実は小流域の谷(我善坊谷)を埋め立てて造った場所なんですよ……。
山中 浩之