東京都心にカワセミが生息している。地形と都市開発を「観察」する
カワセミが愛する空間は人間が求める空間と一致して、小流域がたくさんある東京は、カワセミが愛する都市だった。だから「東京=カワセミ都市トーキョー=カワセミも人間も好む土地」だし、それは世界に対する競争力にもなるんじゃないか、と。 柳瀬:そうそう。これは、江戸の街づくりがわりと正しかったということだし、明治維新以降もこうした小流域の緑地の大半が残された。誰が偉かったかというと、意外なことに明治政府なんですよ。 徳川幕府や幕臣たちが持っていた高級住宅地というか、武家屋敷がほとんど明治の元勲、財閥そして明治政府の手に渡ったりました。が、この人たちは江戸時代の価値観を維持していたから、結局その多くは開発されなかったんですよね。建物は洋館にするけど。 典型が古河庭園や、飛鳥山です。緑は消さなかったし、水源を確保した。一番いいところは恩賜、すなわち天皇の持ち物にした。典型は恩賜井の頭公園、恩賜上野動物園。そういう経緯があって、都心部の公園でも、カワニナがいっぱいいて、オニヤンマが普通にぶんぶん飛んでいる。 えっ。 柳瀬:どこかから飛んできたんじゃなくて、それこそ3万年前からずっといたのかもしれない……んですよ。オニヤンマだけじゃなくて、タマムシもカブトムシもクワガタも。カワニナやサワガニとか移動できないですから。 いや相変わらず話がうまい。柳瀬のそれが「観察」からくると知ると、観察のコツも知りたくなるんだけど。自分の「環世界」から出る、これって要するによくビジネス書が書く「既存の価値観から脱出しましょう」とか「アウト・オブ・ザ・ボックス」と、同じことを言っているわけじゃん。 柳瀬:そうです、同じ。 日ごろの暮らしの中から「観察」するための、ヒントがもらえるとありがたい。 柳瀬:ポイントは何かというと、やっぱり「動詞」に注目することだと思います。人はすぐに動詞を名詞化するんですよ。カメラ「で」観察しましょう、と言われても、「(カメラで)写真撮影」で終わるんですよ。 つまり、手段のほうが目的化しちゃうというアレですな。 ●「名詞」を並べるとビジネスはつまらなくなる 柳瀬:そうなんですよ。そこから抜けるには、常に動詞を意識する。 名詞を集めて満足しないで、時間と空間の変化を考える。 柳瀬:考えてみれば当たり前なんですけど、あらゆることは時間という軸と、移動という軸が必ずありますよね。3次元、4次元で考えるということなんですよ、ビジネスというのは、すべて動詞なんですよ。動詞なきビジネスは存在しないんですよ。 ちょっと難しいぞ。具体的にお願い。 柳瀬:じゃ、不動産開発で考えましょう。ビルでも土地でも、その土地の周り、建てた建物の中で何かが起きなければ価値は向上しない。向上しないと値段も上がらないですよね。誰かの動きによって値段は上がるわけです。ましてや直接開発となったら、開発そのものが動詞だから、その動きが面白いかつまらないかで価値が全然変わるでしょう。つまらないビルにして人がいなくなったら、エリア全体の価値まで下がっちゃう。 ちなみに、エリアのつまらない開発ってどんなふうなのかな。 柳瀬:名詞で考えるやり方ですね。何をやるかの動詞じゃなくて、有名ブランド、有名店をとにかく集めて出店してもらう、みたいな。そんなエリアが、ほとんど名詞はないけれども、動詞だけは死ぬほどあって、常に動いている歌舞伎町に、1億年たってもかなうわけがないんですよ。 はあ、なるほど。 柳瀬:観察のときのポイントは、名詞を見つけたら、それに絡む動詞をちゃんと見ると。それは暮らしだったり、歴史だったり。今回の本はカワセミが主役でしたけれど、街やお店を行き交う人々を見るのとカワセミを見るのとは、別に違いはないんです。街を見るのも一緒なんですよ。