変えないために変える 一周回って考えるクラブの進化/ギアを愉しむ。
変わったところを探すより、変わっていないかをチェックする
自分に合ったゴルフギアの見極めには2通りの“視点”が必要だと考える。新製品を前に「どこが変わっただろう?」と興味津々になるのは当たり前として、もうひとつ「大事なところが変わっていないか?」と疑うことも重要と考えている。 【画像】0.5インチの差を知る必要はある? 私がギアの開発拠点に取材で行き始めたのは90年代半ば。ちょうどキャロウェイの「グレートビッグバーサ」「ビゲストビッグバーサ」が発売されたことで、ドライバーが大型ヘッド化&長尺化に向かう転換期だった。
開発話を聞きにいくたびに、「ポイントウエーティング(モデル別の重心設計)」や「VFTフェース(部分肉厚設計)」「カーボンモノコックボディ」「アジャスタビリティスリーブ&ウエートシステム(可変機能付きクラブ)」といった新しいワードとともに、魅惑のニューモデルが登場した。開発現場に赴くときは、常に「どこが変わるのだろう?」と胸を躍らせた。 実際、開発者へのインタビューの冒頭から、「今までのクラブと、どこがor何が変わったのですか?」と単刀直入に切り込んでいたほど(笑)。変わってこそ価値がある――。そんな風に思っていたのかもしれない。 だが、取材を重ねていくと、エンジニアたちは変えることよりも、変えないことにこそ配慮、苦心していることだと感じるようになった。もちろん改善するべきところを正していくことが進化の在り方だが、それによって今まで保持していたメリットを犠牲にしては意味がない。一発当たればものすごく飛ぶようにはなったが、構えにくく振りにくくなってはゴルフ道具として退化したものになってしまう。 ゴルファーは大きな進化を求めているようで、実はものすごく保守的。特に見た目や打感に関しては驚くほど繊細で、いつもと違うことに大きな拒否反応を示す。実際に、慣性モーメントをルール上限値まで持っていけた半面、独特の形状や打音で評価を下げ、負のイメージを背負ったままクラブ事業から撤退した新興ブランドも多かった。