白井元調教師と学ぶ血統学【163】血統の魅力とは何か?「物事を知ろうと思ったら、自分で考えて動く」
まずは馬に興味を持ってもらうこと
松浪 さっきもちょっと触れましたけど、先生が管理していたスペシャルウィークもそうですし、フサイチパンドラなんかも登場しているウマ娘。あんな感じで「過去の馬」を取り上げてくれると、その時代を知らないファンも興味を持ってくれますよね。あのアーモンドアイのお母さんはフサイチパンドラなんだ。なるほどなあって。 白井 ゲームとか僕にはわからへんけど、まずは馬に興味を持ってもらう。とっつきやすいものが目の前にあるのはええと思うよ。新しいファンが増える。競馬の発展には大事なことやもん。 松浪 血統表の中に彼らの名前を見つけて、その流れで血統に興味を持ってもらえれば。いい循環ですし、血統の入り口としては理想的ではないかと。 白井 ちなみにフサイチパンドラのアニメはどんな感じやった? 見たことないんやけど。 松浪 見ちゃいます? ずいぶんとかわいらしい感じに仕上がっていますよ(笑い)。 白井 ホンマやなあ。ずいぶんとかわいらしいやんか。本物はもっとボリュームがあったよ。めっちゃ食ったから(笑い)。 松浪 このパンドラを見て「かわいいなあ」と思ってもらって。で、実際のパンドラの映像を見て、また違った感想を持ってもらうのもおもしろいですよね。「なに、これ?」みたいな(笑い)。 白井 そんなんもありやな。めっちゃ食うし、タフやし。あの見た目とはまるで違うで。 松浪 でも、そんな感じで興味を持ってもらって、さらに血統をさかのぼっていくとか…。興味の持ち方にもいろいろあると思いますし、さっきも言いましたけど、いい循環で理想的に感じます。 白井 そうやな。これは何度も言ってきたけどさ。パンドラは血統にこそ魅力のある馬やから。知ってほしいよね。僕が夢中になった理由を。 松浪 なぜ、フサイチパンドラからアーモンドアイのような名馬が出たのか? それも血統に理由がありますからね。 白井 そう。セックスアピールにベストインショウ。調べてほしいね(笑い)。 松浪 血統は自分から調べに行かないと知識を得られません。能動的な行為ですし、その部分に難しさがあるように思います。これについては? 白井 そうかもしれんけど、現在はスマホでパッと調べられるやん。僕らの時代はもっと大変やったで。映像があるわけでもなく、バックパサーがどうやとか、本を読んでイメージしてたんやから。でも、それが楽しかった部分もあったかな。すごいんやろうなあ…と想像を膨らませてさ。そういう馬が種牡馬になって、自分の系統をつくっていく。フサイチパンドラはバックパサーの血を引いてるんやで。つながってるんやなあと思うやんか。 松浪 自分から探しに行っているからこそ、それに関するものを目の前にしたときの感動。これが大きい。それを体感してほしいですよね。 白井 なんでもそうちゃうかな。競馬に限ったことでなくてさ。物事を知ろうと思ったら、自分で考えて動く。それこそが身になっていく。血統はその部分が大きいよ。 松浪 なるほど。ひと言で言えば探求心。そうか、それが血統の一番の魅力なのかもしれません。 ☆白井寿昭(しらい・としあき)1945年生まれ。広島県呉市に生まれ、大阪で育つ。68年に上田武司厩舎の厩務員となり、78年にJRA調教師免許を取得。79年に開業した。95年のオークスをサンデーサイレンス産駒のダンスパートナーで制してGⅠ初勝利。98年日本ダービーなど、GⅠ4勝を挙げたスペシャルウィーク、国内外でGⅠを6勝したアグネスデジタルなどの名馬を管理した。2015年、定年により調教師を引退。現在は競馬評論家として活動している。
松浪 大樹