「酒向メソッド」でさまざまな病気を予防できるのはなぜか【正解のリハビリ、最善の介護】
【正解のリハビリ、最善の介護】#60 「介護の仕事を長くしてますが、病気のことがわからなくて、いつももっとよくなるんじゃないかと悩んでます」 認知症予防に運動は有効なのか? 気を付けるべきポイント ある介護士さんはこう言います。また、在宅医療の先生は「薬は出してるけど、介護に何が大切なのかよくわからないんだよ」と口にされていました。 いま、日本リハビリテーション医学会でも「介護」が注目されています。私も来年6月に国立京都国際会館で開催される学術集会で、「介護における臨床力・医療力とは」をテーマにした教育講演を行う予定です。 日本では、医師を養成する大学の医学部で、本格的な介護の教育は行われていないのが実情です。高齢化が加速している近年、国は急性期の患者さんを治療する「医療」と、慢性疾患を抱えた患者さんの生活をサポートする「介護」の一体的改革を進めていますが、まだまだ広く浸透しているとはいえません。実際、介護を担う介護福祉士は「福祉職」で、医師や看護師は「医療職」と位置づけられています。 こうしたことから介護の分野では、一般の方も含めた専門的な医療知識のない人が、患者さんに寄り添ってサポートしているのが現実です。しかし、医療をきちんと知らなければ「最善の介護」は実現できません。最善の介護とは、患者さんが社会参加できるまでしっかり回復する手助けをすること、患者さんや家族の希望に応じた寄り添い支援を行うことになりますから、現時点では「リハビリテーション看護ケア」の医学的知識が必要になります。 たとえば、脳の病気で障害が残って寝たきりになってしまった患者さんが、現状のままでいいというのであれば、介護者が患者さんに寄り添って、食事やトイレ、入浴などをサポートしながら、徐々に終末を迎えるのを見守るという方法になるでしょう。しかし、患者さんが社会復帰や社会参加を希望する場合は、回復するかどうかの評価と治療が必須になりますので、医療専門職のリハ看護ケアによる人間回復が欠かせません。そして、その核となるのが「酒向メソッド」なのです。 ■社会活動への復帰が健康につながる 酒向メッソドは、障害が生じている病態を理解した上で、筋肉や骨を強化する筋力トレーニングと、関節可動域=柔軟性を保つストレッチ運動を継続するための取り組みで、具体的な方法はこれまで何度かお話ししてきた通りです。筋肉と骨を鍛えて回復させ、維持することで、就労、交流、社会活動に復帰することが可能になり、その筋肉増進活動が、糖尿病などの生活習慣病をはじめ、脳血管疾患、心臓血管疾患や認知症といったさまざまな病気の予防や回復につながります。 科学的には、ミューズ細胞などの多機能幹細胞を通して、筋肉を鍛える運動習慣はがんについても効果があるのではないかとも発表されていて、研究も進んでいます。 以前、私もこんな経験をしました。悪性脳腫瘍で手術した患者さんが寝たきりになり、回復のためのリハビリを家族が希望されて来院。入院して1カ月のうち3週間はリハビリ、1週間は化学療法のために他院に入院、というスケジュールを6カ月間繰り返した結果、入院後1カ月で患者さん自身のリハビリ意欲が向上し、歩いて退院できるまで回復されました。この間、脳腫瘍は増大しませんでした。 しかし後日、その患者さんが自宅で転倒して動けなくなり、急性期病院に運ばれて治療を受け、再び寝たきりになりました。すると脳腫瘍がどんどん大きくなり、結局、亡くなってしまったのです。運動機能が低下して筋力が衰えただけでなく、リハビリスタッフに声を掛けてもらうことで気持ちよく頑張ろうと体を動かしていた頃とは違い、急性期病院で孤立した状態となり腫瘍を抑制する免疫力が落ちてしまった可能性も考えられます。 筋肉と骨を鍛え、柔軟性を維持する酒向メソッドは、自宅でひとりでも実践できますが、継続するにはかなりの強い意志が必要です。また、身体能力の評価が必要ですので、インストラクターやセラピストらの専門家について行うのが望ましいといえます。 年齢から考えると、50歳以下であれば自分ひとりでも無理なく行えますが、50歳を越えると少ししんどくなってきて、60歳になったら誰かに助けてもらったほうがいい。70歳を越えたらひとりでは難しいでしょう。やはり、病態生理医学をしっかり学んだインストラクターやセラピストらに正確に計画してもらうのがおすすめです。 (酒向正春/ねりま健育会病院院長)